No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載01

“非密”のテクノロジーを活かせ

Series Report

第1回
“密閉”空間をなくす、安全な空間に変える

2020.09.23

文/伊藤元昭

“密閉”空間をなくす、安全な空間に変える

新型コロナウイルスの影響を受けて、これまで未来の技術と思われていた技術の中から、にわかに実用化に向かい始めたものが出てきた。特に注目されているのが、いわゆる「三密(密閉、密集、密接)」を解消・対策するためのテクノロジーである。テレワークや仮想現実(VR)などITを活用した技術だけでなく、人を誘導する技術、人手を省くロボットやウイルスを不活性化する新素材など、該当技術の幅は広い。本連載では、にわかに脚光を浴び始め、活発な開発が進められるようになった“非密”のテクノロジーの開発動向を紹介する。第1回では、“密閉”空間でのウイルスの滞留による感染を防ぐ技術を、第2回では“密集”状態を未然に防ぐ技術や密集する必要性をなくす技術を、第3回では人やモノが“密接”しなくても不都合のない仕掛けを作る技術について解説する。

新型コロナウイルスの猛威は、中国 武漢市が都市封鎖された2020年初頭から半年以上経っても、沈静化するどころか広がる一方。感染の拡大が終息したと思われた国や地域でも、第2波、第3波の到来が懸念されている。早期終息させて生活や社会活動を元に戻す「アフターコロナ」を見据えた対応の開始時期は見通しがつかない。ウイルスと共存しながらワクチンの開発や集団免疫の獲得までやり過ごす「ウィズコロナ」を想定した、新たな生活様式に適応していくことが求められるようになった。

私たちは三密を好み、追い求めてきた

ウィズコロナでは、感染の拡大を助長する状態、いわゆる「三密(密閉・密集・密接)」を避け、爆発的な感染拡大を防ぐことが何よりも大切になる。ところが困ったことに、人間は三密の状況が本能的にも実利的にも大好きだ。そして、経済活動の活発化や生活の豊かさを求めて、積極的に三密状態を作り出してきた(図1)。

[図1]経済活動の活発化や生活の豊かさを求めて、積極的に「三密」状態を作り出してきた
作成:伊藤元昭
写真:Adobe Stock
経済活動の活発化や生活の豊かさを求めて、積極的に「三密」状態を作り出してきた

コンサートやスポーツ、展示会などのイベントは集客数が多ければ多いほど観客は臨場感と高揚感を感じる。そして、主催者側も、より多くの来場者を動員できれば成功とみなしている。そして、経済活動を活発化させるためのマーケティングやブランディングの方法論は、いかに多くの人を一定の場所、時間、シーンに集めるかを目指して考案されてきた。

また、多くの人は、人口密度が高くなることによる人同士の活発な交流や刺激を魅力的に感じる傾向がある。三密がさらなる三密を生み、国や地域を問わず、人口の集中は大都市でこそ顕著になる。加えて、日本が誇るおもてなし文化は、密着度の高い目配りやスキンシップを基にしたサービスで成り立っている。さらに、創造的で効率的な仕事をするためにも、より多く、より多様な人との密なコミュニケーションが欠かせない。

意識せずに三密回避、または三密不要の仕掛けが必須

三密を避けるウィズコロナ時代の新しい生活様式とは、これまで好み、追い求めてきた状況を全否定するということである。

長年にわたって三密を美徳としてきた経済活動や生活のままでは、三密回避によって、様々な不都合、不利益、不快を生み出す。各国政府や世界保健機関(WHO)などは、三密を避けるため、新しい生活様式を取り入れるように呼びかけている。しかし、これまでとは真逆の生活様式であるため、人々の自助努力や自制心に期待しているだけでは、三密回避の取り組みは続かない。多くの人が継続的に三密を回避するためには、意識的に取り組まなくても三密を回避できる仕掛け、もしくは三密にならなくても活発な経済活動や豊かな生活ができるようにする仕掛けが必要だ。ここに、テクノロジーが貢献する余地がある。

ただし、ウィズコロナ時代は既に始まっている。これからの新しい生活様式に役立つ技術を、今から開発しても間に合わない。可及的速やかに対策として活用できる既存技術を発掘し、上手に応用する発想も重要になる。ウィズコロナ時代の新たな生活様式に役立つ「秘密のテクノロジー」ならぬ、「非密のテクノロジー」を、密閉対策、密集対策、密着対策と目的ごとに分けて紹介したい。まずは、密閉対策への適用が想定されているテクノロジーについて解説する。

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