連載01
ヘルスケア/メディカルに半導体チップが生きる。
Series Report
第3回
ウェアラブルデバイスを医療・ヘルスケアで使うための課題
2019.3.4
アップルウォッチやフィットビット、ガーミンなどの活動量計ウェアラブルデバイスは、これまでは「健康オタク」向けのガジェットであり、趣味の領域を出なかった。では、どうすれば医師にウェアラブルデバイスのデータを利用してもらえるのだろうか。どうすれば厚生労働省に医療機器として認証してもらえるのだろうか。現在はその答えを模索しているところだ。例えば血圧を、これまでのように腕を締め付けてから開放する方法ではなく、ウェアラブルデバイスで簡単にしかも連続的に測定できるようになれば、病院で使うだけではなく、在宅でモニターできるようになり、病気の早期発見・早期治療につながる。そこで今回は、新しいヘルスケアデータの測定法をはじめ、高齢化対策を含めた将来の医療にテクノロジーがどう貢献できるかについて議論していく。
テクノロジーの進展により、ヘルスケア向けのウェアラブルデバイスは患者の情報にアクセスするうえで有効な手段となり、患者の行動を理解し治療法を改善できることがはっきりしてきた。少なくともアメリカでは、これまでのアップルウォッチ(図1)やフィットビット、ガーミンなどの活動量計をはじめとするヘルスケア向けウェアラブルデバイスから、FDA(日本の厚生労働省に相当するアメリカの食品・医薬品局)認可の医療機器に至るデバイスまで、かなり普及してきた。医療ウェアラブルデバイスの世界市場は、2021年には121億ドル(約1.3兆円)に達するという市場予測がある(参考資料1)。
ただし、医療用のウェアラブルデバイスは、民生用とはかなり違う。快適、使いやすさ、簡単さという点では本質的に同じだが、目的は全く違う(参考資料2)。フィットネストラッカーのような民生用のウェアラブルデバイスは、主に体形維持などに役立てるものだ。しかし、医療用のウェアラブルデバイスは、命に関わる病気を発見するため、生体データを集めて正確な診断を支援し、副作用の少ない薬を処方する。そのため、絶対に安全で、正確である必要がある。つまり医療用ウェアラブルデバイスには誤動作が許されないものなのだ。
データの一致性、一貫性は不可欠
医療等のウェアラブルデバイスに求められるのは、例えば一人の人間の心拍数を測定するデータに一貫性があるか、どのデバイスで測定しても同じ結果が得られるか、といったものだ。それぞれのデバイスがインターオペラビリティ*1を確立していなければ、病院が使うにあたり不安が残る。
医師の不安の一つは、身体のデータを測定する方法がこれまでの方法とは違ってきていることだ。例えば、今まで心拍数は脈拍を測定することで数えてきた。最も簡単な測定は、左手首を右の指3本で押さえて脈打つ回数を1分間測るのである。また従来は、心臓の鼓動を連続的に測定するには大掛かりな心電図というシステムが必要だった。しかし現在は、連載2回目で紹介したように、ウェアラブルデバイスで緑か赤のLEDを皮膚の上から照射し、その反射を見るという新しい方法で測定できるようになっている。
医師がウェアラブルデバイスのデータを医療目的で使うためには、従来の測定法で得られたデータと、新しい測定法で得られたデータが一致することが求められる。しかも、アップルウォッチをはじめ、フィットビットやガーミンなど、同じ測定法を採用したウェアラブルデバイスのデータとも一致する必要があるのだ。そのため、これらのデータを揃えるための規格作り、標準化作業、インターオペラビリティなど、業界全体のコンセンサスを得るための活動が極めて重要になる。
データを一致させるというのは、従来の測定値と新しい測定値の相関を示すだけではない。連続的な測定データとの相関も必要になる。例えば、ウェアラブルデバイスの連続データと、心電図での連続データを比較し、その違いなども分析しなくてはならない。分析するアルゴリズム(ソフトウエア)が、測定ハードウエアと対応していることも必須だ。他のデバイスや企業のデータとも一致性を確認する必要がある。(参考資料3)
ウェアラブルが医療界に及ぼす効果
ここで、ウェアラブルデバイスが医療界に及ぼすメリットを改めて整理してみよう。
- 医師は患者のニーズに基づき、ソフトウエアの助けを借りて患者ごとの治療計画を簡単に作成できるようになる。
- 医療パラメータの精度を高めることによって、病気を早期に診断できるようになる。
- 医療従事者は、自宅にいる患者のデータをリアルタイムでモニターできるようになる。
- 患者に薬を飲む時間を知らせ、もし飲み忘れたら医者に知らせることも可能になる。
- リアルタイムで保存されるヘルスケアデータを、患者の病歴と併せて分析することで、より正確なデータが得られる。また、データを他の医師と共有し、意見を仰ぐことで、より的確な診断を下すことが可能となる。
- 患者は定期的に通院する必要がなくなり、国が負担する医療費が削減できる。患者自身も移動のための時間とコストを削減できる。
[ 脚注 ]
- *1
- インターオペラビリティ:
相互運用性ともいう。仕様が確定したら、どの企業の製品も同じ仕様で作って、どの製品もつながり正常に動作することを確認する作業