No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

連載01

ネット革命第2波、ブロックチェーンの衝撃

Series Report

第2回
仮想通貨が技術基盤を固め、
多様な新しい応用を生み出す

2018.05.31

文/伊藤元昭

仮想通貨が技術基盤を固め、多様な新しい応用を生み出す

ブロックチェーンは、用途先にありきで作り出された技術である。その用途である仮想通貨は、新しい技術をブラッシュアップするために必要な資金を潤沢に供給できるものだ。そのため、ブロックチェーンの改善や派生版への展開は、急ピッチで進んでいる。そして、今後の応用拡大につながる、技術的素地と実用化の支援環境が作り出されているのだ。ただし、仮想通貨向けの技術として誕生した経緯から、ブロックチェーンには他の応用分野には適さない特徴も残っているため、応用の拡大を見据えた技術の開発も、急ピッチで進められているのだ。連載第2回の今回は、現時点でのブロックチェーンの中心的な応用先である仮想通貨での技術的ニーズに応えるため、そして、今後ビジネスや社会活動に大きなインパクトをもたらす別の応用を開いていくため、どのような技術開発が進んでいるのかを紹介する。

ブロックチェーンは、民間企業が運用する仮想通貨であるビットコインのための技術として誕生した。つまり、最初からビジネスに密着した技術だったと言える。前回、ブロックチェーンを取り巻く現在の状況は、黎明期のインターネットのそれに似ているという話を紹介した。ただし、こと商用化という観点から見れば、アメリカ国防総省が資金を提供して作られた、大学や研究機関をつなぐネットワーク「ARPANET」を起源とするインターネットとは好対照にある。インターネットの商用化と爆発的な普及には、かなりの時間が掛かったのだ。

ブロックチェーンは商用技術として誕生した

ARPANETの最初の稼働は、1969年のこと。そして、インターネットの民間利用が始まったのは1990年代半ばであり、その段階では、インパクトを正しく理解し、画期的な製品やサービスを提供する企業は少なかった。ブラウザの提供でインターネットの民間利用に貢献したNetscape Communicationsの設立は1994年、Amazonがネット上でサービスを開始したのが1995年、Googleの設立は1998年、Facebookに至っては2004年にならないと登場しない。

これに対し、ブロックチェーンはかなりの早咲きだ(図1)。仮想通貨向けブロックチェーンの論文をSatoshi Nakamotoと名乗る謎の人物が発表したのが2008年、2009年には早くもビットコインの最初の採掘が始まり、ビットコインの運用が始まっている。2010年には初めてビットコインによるモノの購入が成立して通貨として機能するようになり、2011年の時点で既に価値の乱高下が始まるなど投機の対象になり始めた。

[図1] ブロックチェーンは開発当初から民間利用が前提
作成:伊藤元昭
ロックチェーンは開発当初から民間利用が前提

ビットコインは2100万BTC(ビットコインの通貨単位)を上限として少しずつ発行されることになっているが、2012年時点での発行数は1000万BTCを突破している。2010年の時点では2枚のピザを買うのに1万BTC必要だったが、2017年には一時的に1BTCの価値が200万円以上に達するまでに高騰した。わずか10年足らずで、時価総額が30兆円を超える規模の通貨が忽然と現れたことになる。

大きなお金が動くところ技術が育つ

大きなお金が動くところ、しかもそこがピカピカの新市場となれば、多くの企業が殺到するのは当然。ビットコインやそれ以外の仮想通貨を扱う取引所、そして巨額の設備投資をして採掘ビジネスに参入する企業が数多く登場した。

技術の進化には、ヒト・モノ・カネといった経営資源の投入、特に潤沢なカネの投入が欠かせない。新しいコンセプトの技術を天才が机上で生み出す作業が行われるのは、1つの技術の開発史の中でもごく初期の段階に限られる。ブロックチェーンで言えば、Satoshi Nakamotoがやった仕事がまさにこれだ。

技術を育てるのにお金が掛かることを示す好例がある。インターネットの源流が湧き出た1969年は、アポロ11号が人類初の月面着陸を成し遂げた年でもある。アポロ計画には、約250億米ドルという巨額の資金が投じられた。アメリカ最初の宇宙プロジェクトのマーキュリ計画が3億9260万米ドル、アポロ後のスペースシャトル計画が約100億米ドルと言われているから、いかに未曾有の巨大プロジェクトだったかが分かる。アポロ計画に向けて開発・育成された技術がその後の産業界に与えたインパクトは計り知れない。半導体集積回路、精密加工に欠かせないCNC(コンピュータ数値制御)による機械工作、燃料電池などはアポロ計画をきっかけに実用化に向かったと言える。その他、素材や電子部品、さらには技術開発のマネージメント手法まで、その後の産業発展の礎を作った成果は極めて大きい。今の現代社会の様子を見渡してみれば、当時の巨額投資は、みごとに結実している。

技術の進化・応用拡大という視点からブロックチェーンを見た場合、仮想通貨への応用に向けて、技術開発に投じられる資金が当初から潤沢だったという幸運がある(図2)。技術開発のスピードは速く、競争も激しいため、技術の利点を伸ばし欠点を解消する派生技術が次々と登場している。さらに、技術開発の成果がビジネスの成果に直結しやすいため、実用化に欠かせない社会実装技術も急激に進歩している。こうした技術開発の成果は、そのままブロックチェーンの応用を拡大していくときの素地になる。

[図2] 初期市場で技術の素地を固め、展開市場に応用
作成:伊藤元昭
初期市場で技術の素地を固め、展開市場に応用
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