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壁の向こうにいる人間の動きを透かし見る

2018.9.6

機械学習によって、壁の向こうに人間の動きをカメラなしで推定できる「RF-Pose」
Image: Jason Dorfman/MIT CSAIL
機械学習によって、壁の向こうに人間の動きをカメラなしで推定できる「RF-Pose」

壁の向こうにいる人間が、どんな動きをしているのかが丸わかりになる──。1983年の映画『ブルーサンダー』では、高性能サーモグラフィーを搭載した戦闘ヘリがカーテン越しに室内を透視するシーンが印象的だったが、これよりも高精度な透視がはるかに低コストで実現されようとしている。
MITコンピュータ科学・人工知能研究所のDina Katabi教授らが開発している「RF-Pose」は、人工知能とワイヤレス技術を組み合わせた透視技術だ。
無線信号が飛び交っている空間で人間が動くと、信号の強度などが変化する。逆に言えば、無線信号の変化を正確に捉えることができれば、人間がどんな動きをしているのかを推測することができるわけだ。
とはいっても、電波の状態の変化と人間の動きを紐付けすることは容易ではない。画像認識であれば、写っているのがネコかそうでないかを判定することもできるが、無線信号はそういうわけにはいかない。
そこで研究チームは、歩く、話す、座る、エレベーターを待つなど、数千人からさまざまな動きのサンプルを収集。同時に、無線信号の変化も記録した。
そして、動きのサンプルから棒状のフィギュアデータを抽出、これと無線信号のデータを機械学習システムに学習させた。これにより、無線信号の変化を計測するだけで、カメラなしの動き推定が可能になったのである。
壁を透かして見られる技術が悪用されると、プライバシーの侵害につながるという懸念もあるが、研究チームではこの技術をパーキンソン病や筋ジストロフィーなどの患者の治療や補助に応用したいと考えている。また、高齢者の転倒やケガの防止、災害時の生存者の捜索、新しいタイプのビデオゲームなどへの応用も検討されている。
現在のRF-Poseでは、2次元のフィギュアデータを抽出しているが、今後は3次元のフィギュアデータも作成できるようにし、高齢者の手が定期的に揺れているかどうかといったことも確認できるようにしていく予定だという。

(文/山路達也)

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