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まるでSF!微粒子はシャットアウトして、
大きな物質だけ透過させる膜
2018.10.9
「膜」というのは、外界と内部を隔てるためにある。生物でいえば、基本となるのは細胞膜だ。細胞は膜を通じて外界から必要な物質を取り入れ、内部で化学反応を進め、逆に老廃物を外界に排出したりしている。
たいていの場合、膜はサイズの大きな物質をシャットアウトし、細かな物質だけを透過させるわけだが、そんな常識を覆す「膜」をペンシルベニア州立大学のBirgitt Boschitschらの研究チームが開発した。
この膜は、分子サイズの大きな物質は透過させ、小さな物質をシャットアウトするのだ。膜を透過できるかどうかは、物質の持つ運動エネルギーによって決まる。同じ速度であれば、質量の大きな物質の方が小さな物質よりも大きな運動エネルギーを持っている。
物質が膜にぶつかると、膜は柔軟に伸びて物質をくるもうとするのだが、物質の運動エネルギーが大きければ膜を振り切ることができる。運動エネルギーが小さい物質は、膜に阻まれる。研究チームは最初の試作に使ったのは、シャボン玉のような石鹸の膜だった。その後、改良を重ねて強度を高め、抗菌性や臭気中和の属性も持たせていった。材料を調整することで、特定の気体を通さないようにすることも可能だという。
不思議な性質を持つ膜だが、ではいったい何の役に立つのだろう?
研究チームが有望だと考えているのは、医療や公衆衛生の分野だ。例えば、不衛生な場所で、病原体の感染を防ぐ防護フィルムとして使う、手術に必要な道具を安全に受け渡すといった使い方が考えられる。また、下水道のインフラが整っていない場合、この膜をトイレに使うことで、悪臭や病原体の拡散を抑えられる。