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磁性ナノ粒子を使った
ドラッグデリバリーシステムで、脊髄腫瘍を治療
2018.11.5
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脊髄にできる悪性腫瘍の中でも、髄内腫瘍はとりわけ治療が難しい。髄内腫瘍は若年層に多く、平均的な生存期間は15.5か月と進行が早い。
そもそも脊髄腫瘍では、患部の腫瘍が重要な神経組織に極めて近い位置にあるため、外科手術や放射線治療で除去する難易度が高い。さらに髄内腫瘍となると、文字通り脊髄内に生じる腫瘍のため、抗ガン剤を効果的に使えない。その理由は、血液脳関門の存在だ。
人間の体内には無数の血管網が張り巡らされているが、血管を流れる血液は直接脳や脊髄などの中枢神経系に流れ込むわけではない。脳や脊髄を満たす組織液と血液との間でも物質交換は、血液脳関門という仕組みを介して行われている。
血液脳関門があるおかげで、中枢神経網は有害な物質から守られて機能を維持できているわけだが、腫瘍の治療ではこれがネックになってしまう。血管に投与する抗ガン剤が、血液脳関門によって阻まれて患部にまで届かないのだ。
こうした課題を解決するために、イリノイ大学の研究チームが開発したのが、磁性ナノ粒子を使ったドラッグデリバリーシステムである。
研究チームは、抗ガン剤のドキソルビシンを微小な金属粒子と結合させ、磁性ナノ粒子を作成。人間の髄内脊髄腫瘍を移植して髄内腫瘍を再現したラットを用意し、脊椎を覆っている皮膚の直下に磁石を埋め込んだ。そして、腫瘍近くの脊髄内の空間に磁性ナノ粒子を注入したところ、磁性ナノ粒子は磁石に引き寄せられ患部に誘導されていった。腫瘍の細胞はドキソルビシンの働きによって死滅し、なおかつ健康な細胞への悪影響も見られなかったという。
現在はまだラットで原理実証が成功したという段階だが、一刻も早い実用化を願いたい。