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ストレージの容量を格段に増大する「分子メモリ」

2018.12.17

単分子で磁石としての性質を持つ、ジスプロシウム・メタロセンの化合物。
by the University of Jyväskylä
単分子で磁石としての性質を持つ、ジスプロシウム・メタロセンの化合物。

大容量のデータを記録するために、磁石は不可欠な存在だ。コンピュータのハードディスクドライブの中には磁性体が塗られた円盤が入っており、円盤上の微小な磁石の状態を磁気ヘッドが読み書きするようになっている。ハードディスクなど磁気記憶装置の記憶容量を上げるにはより小さな磁石を使って密度を高めればいいわけだが、磁石はどれくらいまで小さくすることができるのだろうか?
注目を集めているのが、「単分子磁石」だ。
従来の磁石(バルク磁石)の場合、各原子のスピンが揃った状態になると強い磁力を持つ。
これに対して、単分子磁石は1つの分子だけで磁石になる。金属と非金属が結合した錯体、例えばテルビウム・フタロシアニン錯体分子などが単分子磁石になることが知られている。単分子磁石は磁石としての特性を長期間保つことができる。
2011年には東北大学の米田忠弘教授、山下正廣教授らが単分子の単位で磁石をオン・オフすることに成功している。
ただし、これまで単分子磁石は極低温でしか動作しなかった。冷却には、高価な液体ヘリウム(沸点マイナス269℃)が必要であり、これが実用化の大きな妨げになっていた。
フィンランドのユヴァスキュラ大学、Akseli Mansikkamäki教授らの研究チームは、量子力学に基づく新たな計算手法を用いて、単分子磁石の電子構造と磁気特性を分析。ジスプロシウムとメタロセンの化合物を合成して、単分子磁石を作成した。この単分子磁石は液体窒素(沸点マイナス196℃)で冷却できる。液体窒素の価格は液体ヘリウムの1/300ほどであり、単分子磁石の実用化の向けて大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。
現在の半導体技術は、「ムーアの法則」(半導体の集積率が18か月で2倍になるという経験則)の限界に近づいていると言われる。単分子磁石を用いた「分子メモリ」によって、ムーアの法則を超えた、超高密度磁気記録デバイスが実現できると期待されている。

(文/山路達也)

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