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バッテリなしで動作する!? 世界初、不揮発性マイコン

2019.5.8

東北大学が発表したマイクロコントローラユニット。エネルギーハーベスティングで高度な処理を行えるようになる可能性もある。
東北大学が発表したマイクロコントローラユニット。エネルギーハーベスティングで高度な処理を行えるようになる可能性もある。

パソコンやサーバーの世界において、CPUやメモリに求められる性能はまず速さだった。1秒間にどれだけの回数処理をこなせるか、1秒間にデータをどれだけ転送できるかが問われたが、モバイルデバイスが普及するにしたがい、速さよりも低消費電力性能が重視されるようになっていった。今後、低消費電力性能がいっそう求められていくのは、IoTデバイスだろう。
高度なデータ処理を行う場合、現在のところは、パソコンやスマートフォンからクラウドサービスにデータを送り、その結果をパソコン、スマートフォンで受け取っている。しかしIoTが拡大して膨大な数のセンサーがネットに繋がってくると、すべてをクラウドで処理するの今のやり方では限界に突き当たる。通信帯域やCPUの処理能力が追いつかず、リアルタイムに結果を返すことが難しくなるからだ。そのため、末端(ユーザーの使っているデバイスやセンサーなど)に近いところで、分散して処理を行うエッジコンピューティングが注目されるようになってきた。
例えば、ドローンが取得したデータをリアルタイムに処理して制御を行う場合など、クラウド上でのデータ処理ではとても間に合わない。低消費電力でなおかつそこそこの処理性能を備えた、Iotデバイスが求められているわけだ。低消費電力を実現するための1つのキーワードが「不揮発」である。一般的なCPUやメインメモリは「揮発性」で常に電力を供給する必要があるが、これだと処理を行っていない時でも電力が消費されてしまう。
そうした中、東北大学は、動作周波数200MHzでありながら平均電力50μW以下という不揮発性マイクロコントローラーユニット(MCU)の実証に成功したと発表。電子が持つ電荷の性質と磁石の性質の両方を利用したスピントロニクス技術を用いて、すべての演算部を不揮発化することに成功した。これにより、従来のMCUに比べ、2倍以上の演算性能の向上と2桁以下の低消費電力化を同時に実現したという。
今回のMCUは、電波や熱、振動など環境中に存在するエネルギーを利用する「エネルギーハーベスティング」でも十分に動作する可能性がある。そうなれば、ドローンやロボット、自動運転車などの自律制御や、ウェアラブルデバイスを使った健康診断といった応用も、格段の進歩を遂げることになりそうだ。

(文/山路達也)

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