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リチウムイオン電池よりも優れている?
充電可能な鉄イオン電池

2019.10.7

現在主流のリチウムイオン電池は、安定性などに課題を抱える。鉄イオン電池はオルタナティブな選択肢になるか?
現在主流のリチウムイオン電池は、安定性などに課題を抱える。鉄イオン電池はオルタナティブな選択肢になるか?

コンピュータのCPU処理速度やストレージ容量のように、たいていの人にとってはすでに十分な性能が達成た技術がある一方、さらなる進化が期待されている技術もある。その際たるものが電池だろう。電子機器から電気自動車、さらには発電所が生み出す余剰電力の蓄積まで、電池の性能が上がることで、社会には大きな変化が起こると考えられている。
電子機器、自動車の電源は、完全にリチウムイオン電池の独壇場となった。350Wh/kgと実用化された二次電池(充電池)の中では最もエネルギー密度(理論容量)が高く、3.7Vと高電圧。充電/放電効率の高さなど長所は多いが、その一方で無視できない短所もある。まず、エネルギー密度の高さの裏返しでもあるが、発熱、さらには破裂・発火の危険性だ。パソコンやスマホでの発火事故はしばしばニュースになっているし、電子タバコの爆発事故も増えている。そのため、リチウムイオン電池自体の改良だけでなく、カルシウムイオン電池などまったく別の電極材料を使った次世代二次電池の開発もさまざまな研究機関で進められている。
インド工科大学マドラス校の研究チームが発表したのは、充電可能な鉄イオン電池だ。陽極には軟鋼、陰極には金属酸化物が用いられている。
鉄イオン電池のエネルギー密度は220Wh/kg。研究室での試験では、150サイクルの充放電に耐え、50サイクル後の容量維持率は54%ということである。
リチウムイオン電池のエネルギー密度の6割程度であり、充放電サイクルについてもまだまだ改良が必要な段階だが、鉄イオン電池の大きな長所は、費用対効果の高さにある。電極材料は、他の電池に比べて圧倒的に安価。また、リチウムのように反応性が高い物質を使わないため、特別に制御された環境がなくても製造可能だ。
次世代二次電池というと高性能というところに目が行ってしまうが、環境負荷が低く、低コストの二次電池が実現できれば発展途上国を中心に大きな社会的インパクトをもたらす可能性は高い。

(文/山路達也)

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