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ガン細胞か正常細胞かを即座に識別する「魔法のペン」
2019.11.11
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ガンの外科手術において、外科医は往々にして難しい選択を迫られる。ガン細胞を残してしまうと転移の可能性が高まるし、だからといって正常な細胞まで切除すると重大な機能障害が生じることにもなりかねない。
ガン細胞か正常な細胞かを正確に識別するには、サンプルの組織片を採取して分析する必要があるが、そのためには最低でも30分程度かかってしまう。
こうした課題を解決するかもしれないツールが、テキサス大学オースティン校の開発している「MasSpec Pen」だ。
MasSpec Penはペンのような形状をした、使い捨ての医療機器である。
判別したい部位にMasSpec Penを押し当てると、1滴の水が部位の表面に落ち、そこにタンパク質や脂質、その他の代謝物が浸透する。MasSpec Penはその水滴を吸い込み、質量分析計に送り込む。
質量分析計は、水滴に含まれる物質のプロファイルを作成。機械学習のアルゴリズムを用いてこのプロファイルを分析し、ガン細胞か正常な細胞かを判別する仕組みだ。判別にかかる時間は、10秒以下である。
人間のガン細胞サンプルを用いて、判別の精度を調べた結果は、96.3%。また、ガンにかかったマウスを使った手術では、組織を損傷することなく、ガン細胞を切除することに成功している。現在、研究チームは、甲状腺ガン、乳ガン、膵臓ガンに関して、臨床試験を行っている。
ガン細胞をすばやく正確に識別できれば、正常な細胞を削除する割合も減るため、機能障害が減ることが期待できる。また、これまでは設備の整った病院でないと行えなかった外科手術が、インフラの整っていない発展途上国でも実施できるようになるかもしれない。