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レンズレス・オンチップ顕微鏡が、
圧倒的に広い視野を実現
2020.5.26
医療やバイオ、化学関係の研究者を表す定番のアイテムといえば、まず頭に浮かぶのが顕微鏡、中でも対物レンズを備えた光学顕微鏡だろう。実際、顕微鏡を覗き込んで対象を観察することは、研究者にとって不可欠な作業だ。しかし、現在の光学顕微鏡はプロフェッショナルの研究者にとっても、必ずしも効率的なツールとはいえない。たいていの光学顕微鏡の視野はわずか1〜2mmしかなく、標本のスライドを何度もずらして観察していかなければならない。
こうした課題を解決するため、コネチカット大学のGuoan Zheng教授らが開発したのが、レンズレス・オンチップ顕微鏡だ。この顕微鏡は名前の通り、対物レンズを持たない。標本の上から集束イオンビームを照射すると、標本とイメージセンサーの間にあるビームを散乱・吸収するディフューザーがランダムに動いてビームを回折させ、そのパターンをイメージセンサーに記録。こうしてイメージセンサーに記録されたデータを元に、標本の正確なイメージが再現される。ビームの回折パターンを元にイメージを再現する手法はタイコグラフィーと呼ばれるが、コネチカット大学の研究チームが開発した技術では、従来よりも処理時間とコストを削減することが可能になった。
このレンズレス・オンチップ顕微鏡では、イメージセンサーの領域全体が視野になる。通常の光学顕微鏡の視野が1〜2mmであるのに対して、レンズレス・オンチップ顕微鏡の視野は30mm。2つのスライドを同時に見て分析することも可能だという。
病理学などを始め、顕微鏡を覗く必要のあるさまざまな分野の作業を圧倒的に省力化、高速化することができそうだ。