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天然物にない機能を備えた人工赤血球

2020.8.12

新しく開発された人工赤血球は、酸素だけでなく、薬剤などの運搬にも使える。 Credit: Adapted from ACS Nano 2020, DOI: 10.1021/acsnano.9b08714
新しく開発された人工赤血球は、酸素だけでなく、薬剤などの運搬にも使える。

言うまでもないことだが、人間は大量の血液を失うと死んでしまう。血液の中で最も重要な役割が酸素運搬であり、血液がなくなると体のさまざまな組織に酸素を運ぶことができなくなるからだ。この酸素運搬を担っているのが赤血球だが、「天然物」の赤血球というのは扱いがなかなか難しい。
献血で集めた血液の保存期間は3週間程度で、冷蔵保存すると成分が変質したり、細菌が繁殖する可能性がある。輸血する際にも、血液型をチェックする必要やウイルス感染の危険性がある。
こうした課題を解決するため1960年代から世界各地で人工赤血球の研究が続けられている。現在、ラットを使った実験では、全血液のうち90%を人工赤血球に置き換えられるまでになっており、実用化への期待が高まっている。人工赤血球の作成方法には、保存期限の切れた血液からヘモグロビンを精製して加工する方法と、酸素を溶かし込むパーフルオロカーボンを使う方法がある。人工赤血球の保存期間は1年程度と長く、血液型もないため、緊急医療の現場でも使いやすい。
これまでの人工赤血球の研究は、天然の赤血球が用意できるまでのつなぎとして使うことを目指していたが、天然にない機能を備えた人工赤血球も登場してきた。Wei Zhu氏、Jeffrey Brinker氏らの研究チームは、ヒトの赤血球をシリカの薄い層でコーティングした人工赤血球を作成。この上に正と負のポリマーを重ねて、シリカをエッチングで除去、そして表面を天然の赤血球の膜でコーティングした。この人工赤血球をマウスに投与したところ、48時間以上の間、異常なく体内で維持されることが確認できた。
こうして作られた人工赤血球には、ヘモグロビン以外にも抗ガン剤や毒素センサー、磁性ナノ粒子を充填することができる。また、細菌が作る毒素に対する囮として利用できることもわかったという。
研究チームは、ガン治療、ドラッグデリバリーシステム、毒素の検出などにこの人工赤血球を応用することを検討している。

(文/山路達也)

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