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頭の中で「喋って」⾳声認識
2021.1.15
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口に出さなくても考えたことがそのまま相手に伝わる、以心伝心は脳科学が目指しているマイルストーンの1つだろう。
テスラやスペースXの創業者として知られるイーロン・マスクが設立した、Naturalinkもニューロンからリアルタイムに情報を抽出するための研究を行っている。2020年8月に発表されたデモでは、豚の脳から読み取ったデータを表示することに成功している。しかし、こうしたBMI(Brain Machine Interface)によるアプローチの厄介なのは、(少なくとも現在のところ)脳内にチップを埋め込む必要がある点だろう。
よりシンプルなアプローチとしては、MITメディアラボのArnav Kapur氏によって研究が進められている「AlterEgo」がある。
AlterEgoのハードウェアは、耳から下顎部分に装着するヘッドセットだ。2019年に発表されたプロトタイプでは、顎に接触する部分に4つの電極が内蔵されている。人間が言葉を発しようとする時、無意識に口の周りの筋肉が動く。AlterEgoの電極は筋肉の電気信号を読み取り、AIによって解析。簡単な単語であれば、被験者が思った言葉を92%の精度で認識するところまで来ている。また、相手からの言葉は骨伝導によって被験者の聴覚に届けられる。Arnav Kapur氏は、多発性硬化症やALSの患者とコミュニケーションを取るために、AlterEgoを使うことを想定している。
2020年11月、Time誌はAlterEgoを「100 Best Inventions of 2020」の1つとして選出。AlterEgoが実用化されるまでには、まだ多くの課題があることは間違いないが、AI処理を高速で行うためのニューラルエンジンは年々高性能化し、スマホにも搭載されるようになっている。手術を必要としない非侵襲型のBMIとして期待したい。