No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

Visiting Laboratories研究室紹介

一足先に宇宙で探査させるためのロボットを開発

2018.2.28

東北大学吉田研究室

東北大学・吉田研究室

宇宙探査工学を専門とする吉田和哉研究室は、宇宙ロボット研究室とも言われており、月や惑星で稼働できるロボットの開発を目指している。研究室を統括する吉田和哉教授によれば、「人が宇宙へ行って作業するには危険が多すぎる。だからまず、ロボットが先に行き、地形を調べ、人間が住めるかどうかといった環境を調べ、居住空間の設営ができたら、最後に人間が行く」と手順もミッションも明確である。東北大学の吉田研究室を訪ね、宇宙ロボット開発にかける思いを聞いた。

(インタビュー・文/津田建二)

第 2 部:東北大学 大学院修士課程2年 蓑手勇人さん

蓑手 勇人さん

Telescope Magazine(以下TM) ── 吉田研究室に来られたのは、どんな理由だったのでしょうか?

蓑手 ── 九州工業大学でロケットの研究をしていました。しかし、研究を進めていくうちに、ロケットという宇宙へ行くための手段ではなく、宇宙で動作するものを作ってみたいと思うようになり、この研究室に来ました。

TM ── 今はどのような研究を行っていますか?

蓑手 ── 歩行型ロボットの脚に搭載するためのグリッパー(写真1)を開発しています。グリッパーは、岩を登るために必要な「手」です。ボルダリング競技のように岩をつかみながら自在に壁を登ることを目指して、いろいろな状況で確実に岩をつかめるように作製しています。このグリッパーをロボットに取り付けて、ロボットがどう動くか実験で確認しているんです。

[写真1] 地面や岩をつかむグリッパー
地面や岩をつかむグリッパー

TM ── グリッパーを作るうえで難しい点は何でしょうか?

蓑手 ── この小さなグリッパーをロボット脚の先端に付けて、地面や岩を指先の爪(かぎ針)でつかむわけですが、従来の移動手段である車輪とは地面への接し方が大きく異なります。車輪であれば摩擦を利用しますが、このグリッパーは引っかかり現象を使うので、ここが難しくもあり面白くもある所です。

たとえば人間の世界でもボルダリング競技では引っかかりを利用していますが、指をかけた岩が割れてしまうこともあります。細い指先に強い力がかかるためです。この問題には、グリッパーの指の数を増やし、さらにひとつの指に複数の爪を付けて力を分散することで対処しています。

一方で、次につかむ岩に向かって脚を動かすときには、すぐに剥がせることも重要です。つかみたいときには確実につかみ、剥がしたいときにすぐに剥がせるという二つの動作をうまく切り替えができるように、機構をいろいろと工夫しました。

蓑手 勇人さん

TM ── この研究の目標を聞かせてください。

蓑手 ── 宇宙でロボットを動かすという目標を持って研究しています。宇宙では重力が小さいので、グリッパーにかかる力も小さくなりますよね。我々は地球上での運用を目的としたものではなく、宇宙で実用的に使うことを前提とした開発を行っています。

TM ── こちらに来られてから考えが変わりましたか?

蓑手 ── 生物の体のつくりというのは意外と最適化されているものだと感じるようになりました。先ほどのグリッパーの爪を製作するときに、引っかかりやすい要素とは何かを昆虫の体で調べてみたんです。すると、昆虫の足先の爪は意外と柔軟性があり、樹皮などになじみやすくなっていることがわかりました。生物も面白いですね。

吉田研究室

TM ── 現在は修士課程の2年生ということですが、修了後の進路は決まっていますか?

蓑手 ── 造船業界に就職が決まりました。博士課程に進むほど自分は研究者に向いていないと思うので、現場でいろいろやってみたいと思います。

TM ── ここにきて先生から学んだことは何ですか?

蓑手 ── 問題を多面的に見て、どういう原因が考えられるのか探ってみるようになりました。先生から直接言われたことではないのですが、広い視野を持つことが問題を解決するうえで重要だということを、この研究室で教えられたと思っています。

蓑手 勇人さん

Profile

蓑手 勇人(みのて はやと)さん

東北大学大学院 工学研究科 博士前期課程2年

1993年大分県生まれ。2012年九州工業大学入学。
2016年九州工業大学卒業後、東北大学大学院工学研究科に入学し、現在に至る。
研究分野は宇宙探査工学。
岩石把持グリッパを有するフリークライミングロボットに関する研究を課題としている。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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