No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

連載01

ネット革命第2波、ブロックチェーンの衝撃

Series Report

苦い薬はオブラートに包んで飲む

ビットコインに使われているブロックチェーンは、様々な用途に向けた派生的なブロックチェーンの原点となる技術である。今では、その3つの要素技術それぞれに改良や新たな選択肢を用意することで、ブロックチェーンの用途を拡大するようになった。

権威と信用がある第三者がいなくても安全な取引や契約ができる状況を作り出すというブロックチェーンの理念は、美しいコンセプトではあるが、現実的には応用を拡大する上で不都合が多い。それは社会を支えている銀行や法律、政府などに取って代わるものでもあるからだ。百年後の社会がどうなるのかは定かではないが、現在の社会の仕組みや商習慣を否定してしまうと、いかにメリットがある技術でも普及はままならない。ブロックチェーンという苦い薬を飲むためのオブラートの役割をする工夫が必要になってくる。

まず、中央管理者が一定の権限を担うブロックチェーンが登場し、実際に活用されるようになった(図5)。ビットコインに使われているような、取引や契約を仲立ちして与信する第三者がブロックチェーンを「パブリックチェーン」、またはオープン型ブロックチェーンと呼ぶ。一方で、特定の団体や人がブロックチェーンの運用に参加するコンピュータを管理する形態のものを「プライベートチェーン」、複数の団体や人で管理する形態を「コンソーシアムチェーン」と呼ぶ。さらにこれら2つを合わせて、「パーミションドチェーン」と呼ぶ場合もある。こうした派生版の登場で、金融機関や政府も安心してブロックチェーンの応用を考えられるようになった。そして、銀行の行内での送金や決済にプライベートチェーンを、銀行間の取引にコンソーシアムチェーンを使うといった利用に向けて取り組みが始まっている。

[図5] 管理者の有無からみたブロックチェーンの種類
出典:富士通のホームページ「金融ソリューション〜ブロックチェーン技術の取り組み〜」
管理者の有無からみたブロックチェーンの種類

管理者を置くパーミッションドチェーンでは、取引や契約の透明性が落ち、ブロックチェーン本来のメリットを失う可能性があるとする意見も多い。しかし、取引を承認するスピードを速くできる(ビットコインでは10分要するが、数秒以内での承認が可能)、取引承認のインセンティブ(ビットコインでのイニング報酬)が不要になる、取引履歴が公開されるパブリックチェーンでは扱いが難しい機密性の高い情報も扱えるといったメリットが出てくる。また、参加者を限定できるため、ブロックチェーンの仕様を比較的自由に定義・変更できる点もメリットになる。参加者を限定するため、合意形成の仕組みにPoWのようなシステムを利用する技術を必ずしも用いる必要もない。

性能の低いコンピュータでも合意形成を可能に

さらに、PoW以外にも様々な合意形成の仕組みも提案され、ビットコインとは異なる特徴を持つ仮想通貨などに使われるようになった(図6)。

[図6] 異なる特徴を持った合意形成の仕組みを用意
作成:伊藤元昭
異なる特徴を持った合意形成の仕組みを用意

例えば、「保有資産による証明」という意味である「Proof of Stake(PoS)」と呼ぶ仕組みがある。保有している取引材料(仮想通貨など)の量が多く保有期間が長ければ、ブロックの承認者となる確率が高まる仕組みだ。不正を働くためには、より多くの取引材料を実際に保有する必要があるため、莫大なコストが掛かる。しかも、不正が起きたことが発覚すれば、その保有している取引材料の価値が下がってしまう。このため、不正のうま味がない。PoSでは、PoWのような参加者間での計算能力競争が起きにくい。このため、処理に利用するコンピュータの性能や処理時の電力消費を抑えた運用ができる。

また、「貢献度による証明」という意味の「Proof of Importance(PoI)」と呼ぶ仕組みもある。取引額や取引者の数などブロックチェーンでの取引を盛り上げた貢献度合いによって、ブロックの承認者となる確率や報酬が決まる。PoIは、取引材料となる資産をたくさん持っている人、言い換えればお金持ちほど有利になることを抑えることを目指した仕組みだ。また、参加者のコンピュータの性能も抑えることができる。PoIを採用した仮想通貨である「NEM」は、消費電力が5Wのマイコンでも運用できるとしている。

ブロックチェーンの応用拡大に道筋がついた今、その潜在能力が既存のビジネスや社会活動に大きなインパクトを与えるようになってきた。次回は、既存ビジネスへのインパクトを中心に、最新の応用動向を解説する。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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