No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

Visiting Laboratories研究室紹介

量子コンピュータの開発を推進する理論的研究

2018.6.29

東京工業大学西森研究室

東京工業大学西森研究室

2015年、GoogleとNASAによる量子コンピュータに関する研究成果が大ニュースとなった。カナダのD-Wave Systemsが開発した量子アニーリング型コンピュータを使い「組合せ最適化問題」を、従来の最大1億倍の速さで解いたというのだ。このコンピュータの核となるアイディア「量子アニーリング」を1998年、世界で初めて発表したのが西森研究室である。量子アニーリング方式による量子コンピュータの理論的基盤として、論文が世界中で盛んに引用されている西森教授を伺った。

(インタビュー・文/竹林 篤実)

第2部:東京工業大学 理学院 物理学系 物理学コース博士課程2年 奥山 真佳さん

奥山 真佳さん

西森先生との出会いから博士課程に

Telescope Magazine(以下TM) ── 西森研究室を選んだ理由を聞かせてください。

奥山 ── 正直に告白すると、第一志望の研究室に入れなかったからです。それで西森先生に拾っていただいたのですが、すぐに先生のお人柄に惹かれました。そして、修士1年の冬ぐらいには、この先生の研究室で博士課程まで研究を続けたいと考えるようになりました。

TM ── 奥山さんから見て、西森先生はどのような存在ですか。

奥山 ── 理不尽なところがまったくなく、人間として素直に尊敬できる方です。いつもニコニコされていますが、間違ったところはしっかり注意してくださる。修士1年のときに先生と共著で論文を書かせていただいたときも、研究がとてもスムーズに進みました。だから、西森研究室で学位を取りたいと思ったのです。

TM ── 今も西森先生と共同研究を?

奥山 ── 実は西森先生ではなく、その教え子に当たる東北大学の大関真之先生と一緒に研究をしています。それでも西森先生は嫌な顔を一つすることなく、むしろ積極的に奨励してくれています。

TM ── 今の研究内容を教えてください。

奥山 ── 2018年2月12日号の『Physical Review Letters』誌(アメリカ物理学会発行)に、研究成果が掲載されました。タイトルは「Quantum Speed Limit is Not Quantum(量子速度限界は量子力学特有の現象ではない)」で、大関先生との共著です。量子力学特有の性質として、ミクロなスケールでのみ成立すると考えられてきた「量子速度限界」と呼ばれる不等式が、我々がふだん目にするようなマクロのスケールでの集団現象においても成立することを明らかにしました。

TM ── この研究の面白さはどこにあるのでしょうか。

奥山 ── 例えば量子コンピュータはとてつもなく速いと考えられていますが、その速さにも限界があることがわかります。物事に限界があることを示すのはとても重要です。なぜなら、限界がわかれば「できないこと」も明らかになります。すると無駄な努力をしなくて済みます。

TM ── 量子力学の根源を問い詰めることも、終わりがない問題ですね。

奥山 ── 根源について「なぜ?」と問うてはならない、というのは西森先生が冗談混じりに言うことです(笑)。量子力学の根本原理を認めた上で、そこから先でどんな研究を積み重ねられるかに我々は取り組んでいますから。もちろん、極限まで「なぜ」を追究する姿勢は大切だし、おもしろいとも思いますが、非常に難しい問題でもあるため、そこに踏み込んでしまうと人生を棒に振る恐れもあります(笑)。

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