No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

会場とテレビとで、別の世界を作り出したリオでの挑戦

真鍋 大度氏

── 新たな技術を研究・実験し、実際のエンターテインメントや広告の現場でこれまでにない表現を生み出していく過程がよくわかりました。中でも、ライブパフォーマンスにおける新たな挑戦が真骨頂のように感じますが、そうした意味でもやはり、2016年に行われたリオデジャネイロオリンピック閉会式の「フラッグハンドオーバーセレモニー*7」の演出はとても重要な仕事でしたね。

リオオリンピックのあのセレモニーでは、私は安倍マリオが登場した後のARとフィールドの演出に関わりました。クリエイティブとテクニカルディレクションを任されていたのですが、絶対に失敗できない大舞台でありながら、現地リハーサルなしの「ぶっつけ本番」でやらなければならなかった点を含め、まさに“これまでにない仕事”となりました。

特に大変だったのは、あらゆる想定のもとで様々なバックアップを用意することでした。たとえば、大地震などの有事によって安倍総理が来られなくなった場合やマリオの格好をするわけにはいかなくなった場合にどうするか。もし、土管が故障して出て来られなかった時にどうするか。一番怖いのは無線通信の不具合ですが、コントロールブースから光るフレームまでの無線制御に問題が生じた場合のバックアップ案も作ってありました。また、ボランティアの人が来なかった場合など、テクニカル面以外で発生するトラブルの可能性も含め、あらゆるケースを想定しました。オリンピックにおいてパソコンから映像をブロードキャスト(放送のためのデータ送信)するのも僕らが初めてだったらしく、ソフトウェアのバックアップも万全の態勢で臨みましたね。

── セレモニーで、2020年の東京オリンピックで行われる各競技がARで空から降りてくる演出は圧巻でした。あれは、現場の人にはどのように見えていたんですか?

ARはブロードキャスト映像の視聴者にしか見えないので、会場にいる人たちが同様の演出を観るためには、スタジアムに設置されたLEDのディスプレイで見てもらう必要がありました。ですが、テレビで見ている人には「あの場に本当に降りてきたんだ」と感じてもらうことが大切です。その臨場感を出すには会場の歓声などが重要なので、ARが降りてくるタイミングに合わせて、実はフィールド上では違う光と映像の演出を行って、それを見た会場の人たちにワーッと歓声をあげてもらえるようにしました。それに関しては、セレモニー演出のプロの指導を受けながら、MIKIKOさんを中心に設計を行いました。紅白歌合戦でもそうですけど、会場の人も楽しめて、ブロードキャスト映像の視聴者も楽しめる演出をうまく設計して実現させることが求められるんです。

「5G時代」が持つ可能性と課題とは?

── 間もなく5Gの時代に入り、やり取りできるデータの量も速度も桁違いになりそうですが、そうなると、こうした演出もさらに変化していくのだろうと想像しています。今後どのような変化が起きそうでしょうか?

これまで「3G」「4G」と無線通信が進化してきましたが、通信の遅延が無くなり解像度が高くなるだけで、ストリーミングコンテンツの質やフェイスタイムなどでのコミュニケーションの質は大きく変わりました。そのような変化が、今後さらに大規模なレベルで起きるはずです。2017年、docomoの広告(写真1、動画2)でニューヨーク、東京、ロンドンの3か所に分かれたPerfumeの3人を5Gの通信技術でつなぎ、1か所でライブをしているように見せるという演出をやりましたが、あのプロジェクトで実際に5G通信を体験した際に、「いよいよ本当に時空を超えたパフォーマンスが可能な時代が来るんだな」と実感しました。

[写真1]【docomo×Perfume】FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
NTTドコモ
【docomo×Perfume】FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
[動画2]【docomo×Perfume】FUTURE-EXPERIMENT VOL.01 距離をなくせ。
NTTドコモ

── 一方、最近では5Gの人体への影響を懸念する声も聞こえてきます。データの大容量化・高速化が進むとともに、人間や環境との関係はどうなっていくと思われますか? 通信速度がいくら速くなっても、人間の処理速度はそんなに変わりません。情報の量の多さや速さが、人間にとってすでに負担になっているようにも感じます。

そういった問題が、これからの重要な課題になるでしょう。僕の場合、趣味である音楽の聴き方も最近変化してきました。昔はレコードやCDを買って好きな曲を何度も聴くということをやっていたのですが、今は「好きな曲を何度も」ではなく、自分の好きなタイプの曲を一つ入れたら自動で似た曲を選んでくれるApple MusicやSpotify*8のようなアプリで聴く機会が増えました。それはとても便利な一方で、昔のように曲を探すことに無駄とも思えるような膨大な時間をかけ、ゆっくりとレコードに針を落として聴くということをしたい瞬間もあります。しかし、技術や社会の変化とともに自然とそのような聴き方から離れてしまいつつある自分もいて、それでいいのかなと思ったりもしますね。未来はまだ不透明ですが、各人が情報やデータとどう向き合っていくかを真剣に考えなければいけない時代になっていると感じます。

[ 脚注 ]

*7
CLOSING CEREMONY - RIO 2016 OLYMPIC GAMES(国際オリンピック委員会サイト内動画)
*8
Spotify:スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。4000万曲以上を無料で聞くことができることで知られる。運営元の発表によれば、2019年に入って全世界で利用者(月間アクティブユーザー数)が2億人を超えた。
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