No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

「面白さ」の裏側にある情報技術革新への懸念

真鍋 大度氏

── 先端技術を用いながらも、人間の身体、人間の歴史や歩みといった「アナログ」な部分への興味が強いように感じます。それは意識的なものでしょうか?

今は、Vチューバー*9的なコンテンツで全員がアバターになり、自分の理想の姿で自在に他人とコミュニケーションが取れるという世界も実現できます。コミッションワークではそういったプロジェクトも手がけますが、自分自身の興味としてはリアルとバーチャルの境界線に興味があり、その結果必然的にアナログとデジタル両方手がけることになりますね。今後、AI技術の進化によってボットの精度がどんどん高くなっていくので、リアルとの接点が無いバーチャルの世界がどんどん広くなっていくと思いますが、どこまでやるべきなのかは考えてしまいますね。

メディアアートの役割と、その先にある未来

── 作品を拝見していると、メディアアートが社会に与えるインパクトの大きさを実感します。今後メディアアートが社会で果たしたい役割について考えがあれば教えてください。

2015年に香港で発表された広告で、「たばこの吸い殻に付着しているDNAを解析し、その人の顔をプリントして吸い殻と一緒に展示する」という作品がありました。それは個人情報に関する問題を提起するプロジェクトとして話題になりましたが、そのような問題提起をすることだけでなく、実装や実証実験までしてしまうことがメディアアートの大事な役割の一つだと思います。

加えて、メディアアートにはもう一つ重要な役割があると思っています。それは、未来を予測することです。たとえば今や普通になったタッチスクリーンは、15年前はメディアアートの作品でした。当時はタッチをセンシングするだけでも一苦労でしたが、その時その作品を作っていた人たちはみな「10年後にはこれがきっと手のひらに収まるものになる」とわかっていたはずです。今の技術だとこれぐらい大掛かりなシステムが必要だけど、そのうち必ず一般社会に実装されるだろうと。そのように、メディアアートに携わることで見えてくる。未来があります。それを具体的な形で世に提示することが、メディアアートの役割として大きいと僕は思っています。

── 2014年に放映されたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の真鍋さんの回で、まだドローンが一般的ではなかった当時、「ラジコンヘリ」という言葉を使って「5年もすればこれが普通に飛び回っているに違いない」とおっしゃっていたのが印象的でした。まさに未来を予測されていましたよね。そのような意味で、これから一般的になるだろう技術として注目しているものはありますか?

日本の衛星測位システム「みちびき(準天頂衛星システム)*10」や、屋内GPSと呼ばれる超広帯域無線通信「UWB(Ultra Wide Band)」などのロケーションデータを使ったシステムやコンテンツですね。現状GPSを用いて把握できる位置情報は、「今どこの道を歩いているか」ぐらい、つまりスケールで言えば5~10m程度です。その精度が数cmのスケールになることで新しい表現が次々に出てくると思います。具体的にはドローンやビークル(車両)の制御のために使用したり、それ以外だと今年の11月にロケーションデータに関するイベントを企画していて、今はその準備をしています。来年や再来年には、一般的に使われるようになるのではないでしょうか。それが社会にどのような影響を与えるかはまだわかりませんが、その点も含めてとても注目しています。

── 技術の発展によって社会はまだまだ変化していくこと、そしてその行方を予測するメディアアートの役割が大きいことを、実感しました。本日はどうもありがとうございました。

ライゾマティクス

[ 脚注 ]

*9
Vチューバ―:「バーチャルYouTuber」の略語で、2Dまたは3Dのアバターを使って動画投稿や配信活動を行っている人の総称。「YouTuber」の派生語だが、YouTube以外の動画配信プラットフォームを拠点として活動している人もいる。
*10
みちびき(準天頂衛星システム):2018年11月に運用を開始した日本の衛星測位システム(衛星からの電波によって位置情報を計算するシステム)。日本版GPSと呼ばれることもある。現在は衛星4機で運用されているが、2023年度ごろまでに7機に増やし、より高精度なシステム構築を目指す。

真鍋 大度氏

Profile

真鍋 大度(まなべ だいと)

アーティスト、プログラマー、DJ。1976年東京生まれ。

東京理科大学理学部数学科卒業、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)DSPコース卒業後、2006年に株式会社ライゾマティクス(Rhizomatiks)を共同設立し、2015年より同社のR&D的プロジェクトを行うライゾマティクスリサーチを共同主宰。坂本龍一、Bjork、OK GO, Nosaj Thing、Squarepusher、アンドレア・バッティストーニ、野村萬斎、Perfume、サカナクションを始めとした様々なアーティストからイギリス、マンチェスターにある天体物理学の国立研究所ジョドレルバンク天文物理学センターやCERN(欧州原子核研究機構)との共同作品制作など幅広いフィールドでコラボレーションを行っている。 Ars Electronica Distinction Award, Cannes Lions International Festival of Creativity Titanium Grand Prix, D&AD Black Pencil, 文化庁メディア芸術祭大賞など、国内外で受賞多数。

Writer

近藤 雄生(こんどう ゆうき)

ライター。1976年東京生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院修了後、5年半にわたり、各国を旅しながらルポルタージュなどを月刊誌や週刊誌に執筆。2008年に帰国後、京都市在住。ノンフィクション、サイエンス、エッセイなどの分野で様々な媒体に執筆。著書に『遊牧夫婦』シリーズ、『旅に出よう』『オオカミと野生のイヌ』など。最新刊は『吃音 伝えられないもどかしさ』(2019年度「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補作)。京都造形芸術大学/大谷大学 非常勤講師。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。

https://www.yukikondo.jp/

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