No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Expert Interviewエキスパートインタビュー

ゲームAIの現実への応用と今後のゲームの行方

三宅 陽一郎氏

── 自律ロボットに似ていますね

ゲームの中のAIは、現実世界に出す前にゲームの中でいろいろな技術を試している、という見方もできます。ここまでの意思決定という点ではロボットよりも進んでいて、ロボットだと身体をモーターで動かすなどの物理的な作業が必要になってくるため、実際の任務は単純です。これがゲームだと、例えば敵の基地に入り込み、機密文書を盗んで来い、といった命令を受け取って実行することになる訳です。要はゲームではテストケースとして、いろいろなことをやらせてみることができるのです。

── コンピュータでいうところのリアルタイムOSのようなものを組み込むのでしょうか?

いや、RTOSは要りません。現実の世界では現実が動いていくのでRTOSが必要ですが、ゲームの場合、世界も仮想的で、しかも1/60秒ごとに更新されますので、普通のCPUで間に合います。ゲームは1/60秒ごとに動いていきますので、正確にはリアルタイムではありませんが、人間は1/30秒でしか認識できないため、1/60秒はほぼリアルタイムといってよいでしょう。滑らかに見えるわけです。

── 最近のAIはディープラーニングが多かったのですが、ゲームのAIはずいぶん違うものなのですね。

私たちゲーム界には40年間のAIの歴史があります。最初はルールベース、次がステートベース、そしてビヘイビアベースと変化してきました。これからは恐らくゴールベースとタスクベース、そしてシミュレーションベースが主流になるでしょう。ディープラーニングも問題を限定した上で使っていくことになるでしょう。

── メタAIについてもう少し詳しく教えてください。

メタAIとは、ゲームを俯瞰的に見て全体を調整するモノです。ゲーム特有のAIで、ユーザーを楽しませ、ユーザー体験を作り出すものといえます。ある場合にはハラハラ、別の場合にはワクワクするといったいろいろな体験を作り出すのです。

主人公がやられっぱなしではゲームは成り立ちません。主人公1人を5人で囲んでしまえば、主人公にはスキが出てしまい勝てないから面白くありません。ですから半分くらい痛めつけておいて、途中でやめることが重要なのです。また仲間のキャラクターが助けにくるように調整するのもメタAIです。メタAIは、ゲーム全体を変えていくことで、いわば“神様AI”となります。あるいはゲームを作るゲームマスターといってもいいかもしれません。

── メタAIは他にも応用できそうですね。

メタAIは全体を俯瞰的に眺めて調整する役割を持つため、デパートなどにも応用が可能かもしれません。フロアを上からカメラで見ているような存在なので、ロビーでたむろしている人を見つけたら、売り場へ連れていくように促すとか、一人ぼっちの人が暇そうにしているのなら声をかけて会話するとか、単体のAIロボットではできない役割を持たせることが可能です。

ほかにもスマートシティへの応用などが考えられます。例えば災害が起きたときに災害ロボット30台をどう動かすか、どのような順番で動かすのかといった問題解決の流れをメタAIが作り出すのです。

── 今後ゲームはどのように変わっていくのでしょうか?

一つは、これまでの延長線上にある変化で、ゲームを一人一人のプレイヤーごとに高めていくことでしょう。メタAIが進化していき、それを支えるキャラクターAIに命令さえすれば、ユーザーごとに展開が変わるようになっていくかもしれません。

もう一つはゲームを外に出そうという流れです。コントローラとスクリーンがあるこれまでのゲームから離れて、街全体をゲームにしてしまおうという考えです。位置情報ゲームはこれに近い話ですが、これからはスマートシティとも関係があります。5G時代を迎え、至る所にIoTが配置されると町全体でセンシングできるようになります。AR/VR(拡張現実/仮想現実)も入ってきて現実とオーバーレイする形が考えられます。

最後にゲーム以外のAIについてですが、今はビッグデータを学習させるのに3〜4時間かかっています。こんなに時間がかかってしまえばエッジ側(ユーザーに一番近い側)では即座に対応できません。エッジ側でも、もっと早くメモリのあるマシンの登場に期待したいですね。将来リアルタイムでディープラーニングができるようになれば、AIの導入先は飛躍的に広まると思います。

三宅 陽一郎氏

Profile

三宅 陽一郎(みやけ よういちろう)

株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部リードAIリサーチャー

京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。理化学研究所客員研究員、東京大学客員研究員、九州大学客員教授、IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。著書に『人工知能のための哲学塾』『人工知能の作り方』。共著に『FINAL FANTASY XV の人工知能 – ゲームAIから見える未来』『ゲーム情報学概論』など。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK