No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── 会場が複数に渡っているのは意図的なのでしょうか。

意図的でもあり、状況によってこうなったとも言えます。モントリオールでは、どんな場所が使えるかが限られていますから。MUTEKでは、5〜6日の会期中に5〜6カ所の会場が使われます。その際、特定の会場から始まって、最後に座席のあるような劇場で終わるといったように、全体の軌道を考えます。

かつては、プログラムが単一の流れで進んでいくだけでした。観客は最初のプログラムを見て、その後さらに違った空間を体験していく。大きなパノラマを順を追って通過していくのがMUTEK的エクスペリエンスで、MUTEKが何なのかの判断は最終日まで下せないんだと、よく言っていました。開始から10年経った時点で、構成を少し緩めました。依然として主となる軌道はありますが、一部並行プログラムも作っています。

MUTEK Montréal

── MUTEKを説明する際に、「ミューテーション(変異)」という表現をよく使われます。これはどんな意味ですか。

MUTEKは音楽とテクノロジーの関係性を捉えたフェスティバルで、これは当初から変わりません。20年も続くとは想像していませんでしたが、その間に多くのことが変わりました。ですから、このフェスティバルはデジタル・アートの実践の変容を追うものだと説明し始めたのです。ここでパフォーマンスするアーティストは、テクノロジーとの関係性を深く問うような人物であってほしい。そのテクノロジーがひいては、作曲したりパフォーマンスしたりする彼らの方法を刷新させるのです。

例えば、ラップトップのパフォーマンスをホストしたのは、MUTEKが最初でした。今では当たり前のことですが、2000年当時は誰もラップトップが楽器になるとは知らなかった。楽器としてのラップトップはすぐに陳腐化しましたが、進化を追っていくと、今度は2004年にラップトップのオーケストラが出てきたり、ラップトップがコントローラーとして使われたりするようになりました。ダンスのパフォーマンスのために、マッピングやセンサー、レーザー、ドローンなどのテクノロジーを使った例もあります。我々としては、テクノロジーを統合する新たな方法を研究し続けるアーティストを探しているわけです。アーティストらの変容を追うと共に、彼らがチャレンジできる環境も作っています。

画像提供:MUTEK Montréal
2018年のライブの様子

── ライブ・パフォーマンスであるのは、共同体的な音楽体験をもたらすためですか。

それは、MUTEKが元々は音楽ベースのイベントとして生まれ、電子音楽につながっていったことと無縁ではありません。今もそうですが、当時も電子音楽はあまり真剣なものとして受け止められず、DJがやるとか、麻薬が出回る怪しいパーティー用であるといったイメージしかありませんでした。その中で、我々はアート・フォームとしての電子音楽に焦点を合わせるために、アーティスト自身に出てきてもらいたいと思ったのです。非常に教育的なやり方ですが、そのメッセージを伝えるための最良の方法は、これはパーティーでないと言うことだったのです。

── 先ほど、以前は音のテクノロジーは映像のテクノロジーより進んでいたと言われましたが、今ではどうでしょうか。

それは答えるのが難しい。と言うのも、以前は音と映像という二極的な見方が中心でしたが、今は全てが混じり合っているからです。80年代、90年代はデジタル・コンバージェンス(デジタル融合)という言葉がよく使われました。音楽、書籍、映像など全てがデジタルという一つのフォーマットに収められるということですが、このフェスティバルはその融合を解いて、どう再配備するかに関わっている。例えば、今日のVRを見ると、それはあらゆるものを再配置するような興味深いフォーマットであることがわかります。今はどのテクノロジーがより進んでいるのかを見分けるのは困難で、同じようなフォーマットによるデジタルな集中がある。問題は、それを次にどうするかというところにあるのです。

MUTEK Montréal
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