No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

Expert Interviewエキスパートインタビュー

キャッシュ・ベースのフィリピン、モバイルマネーのアフリカ

── 送金について、地域による特徴はありますか。

地域やコリドアー(送金元の国と送金先の国の組み合わせ)によって、様々な違いは見られます。地域内でも国による違いがあります。

例えば、最も信頼できる世界銀行のデータによると、国際間の送金ではアメリカからメキシコへのものが目立ち、これは主要市場となっています。アジア太平洋地域ではオーストラリアから中国、フィリピン、インド宛の送金が大きいのですが、それとは比べものにならないくらいアメリカ・メキシコ間の送金総額は莫大です。そうした地域間の違いはあります。

さらに、送金先、つまり受領する国によって、経済文化的な違いが見られ、これは我々もネットワークを作る際に考慮する要素になっています。例を挙げると、フィリピンはキャッシュ・ベースの経済なので、送金のほとんどが伝統的なキャッシュ受け取り場所を指定します。それに対して、アフリカの何か国かではモバイルマネーが発達しており、これが受領方法の大半を占めている。このように、歴史的な流れ、文化的な違い、デジタル化、スマートフォンの浸透、規制などが影響を及ぼしています。

── キャッシュの受領場所は従来の銀行ですか。あるいは、こうした送金サービスによって新しい場所も可能になっていますか。

国による違いはありますが、われわれは銀行と共に銀行以外のパートナーとも提携しています。例えばフィリピンでは、大手銀行の支店に取りに行くこともできますし、多様なビジネスを営む小売店舗、コンビニなどを含め、国中に数1000か所ある提携先での受け取りも可能です。

── ユーザーは個人でだけしょうか。あるいは企業もありますか。ユーザーがどんな人々か教えて下さい。

現時点では、サービスを提供するのは個人ユーザーだけです。典型的ユーザーは、海外に働きに出ている出稼ぎ労働者や留学生で、母国の家族や友人に送金します。また、自分自身の口座に送金するケースも少なくありません。一定期間海外で仕事をしているとか海外に住んでいるけれども、自国で家を建てていていずれ戻る予定であるといったようなケースです。これが共通するユーザー像ですが、当然地域や国、そしてどんな仕事についているかなどによる違いはあります。

[図2]ワールドレミットの送金アプリの特徴1「即時送金」
送金方法(現金の受け取り、モバイルマネー、銀行振込)に応じて、受取人は10分以内に迅速に送金を受け取ることができる。
ワールドレミットの送金アプリの特徴1「即時送金」
[図3]ワールドレミットの送金アプリの特徴2「送金の追跡可能」
送金のステータスを常に把握し、いつどこにあるかを正確に知ることができる。
ワールドレミットの送金アプリの特徴2「送金の追跡可能」
[図4]ワールドレミットの送金アプリの特徴3「リアルタイムの為替レート」
送信先の国の毎日の為替レートのプッシュ通知を受け取れる。
ワールドレミットの送金アプリの特徴3「リアルタイムの為替レート」
[図5]ワールドレミットの送金アプリの特徴4「安全で安心」
FCAの承認を受けているほか、銀行や金融機関と現地で協力している。
ワールドレミットの送金アプリの特徴4「安全で安心」

出稼ぎ労働者による送金の経済圏

── 海外からの労働者が生み出すこの大きな経済は、普通では目に見えません。これが母国の経済のサステイナビリティーに影響を与えているという数字はありますか。

おっしゃる通り、直接知る機会がないと、出稼ぎ労働者や移住者によってこれほどの経済の流れが生み出されていることはなかなかわかりません。しかし、世界銀行によるとその規模は年額6890億ドル以上になっています。そして国によっては、GDPの大きな部分が海外からの送金によって成り立っているというところもあるのです。

フィリピンを例にとると、この国では海外へ出稼ぎに出て母国へ送金することが長く続いており、常に1000万人規模のフィリピン人が海外から送金を行なっています。この大きな人口が、母国の家族や友人の経済的安心を支えているのです。

── 発展途上国の人々が海外に出稼ぎに出るのは、母国での経済機会が限られているからだと思いますが、経済発展に伴って機会は徐々に開かれていき、出稼ぎ労働者も減っていくのではないでしょうか。出稼ぎ労働者による送金経済自体は、サステイナブルと見ていますか。

そうだと思います。海外への出稼ぎ労働者になる理由は様々で、一般化することには難しいものがあります。母国経済の見通しが悪い、あるいは見通しは良くても、他国の方がもっといいという理由もあるでしょう。また、身の安全、福祉、教育機会が理由のこともあります。旅行するのと同じくらい、出稼ぎや移住の理由も多様です。

また、先ほど典型的ユーザー像をお伝えしましたが、移住者の第二世代もユーザーになっています。例えばオーストラリアに移住した人々の子供達で、すでに経済的にも自立し、自分をオーストラリア人であるとみなしている。そんな第二世代が親の母国にいる家族や親戚を支える。親たちは10〜20年も帰国したことがないかもしれません。ですから、幅広いケースがあるのです。

── このサービスにとっての社会的、技術的な挑戦は何ですか。

ワールドレミットは、従来の送金方法における不便を解決するために生まれました。他の送金手段のほとんどが今でもキャッシュに頼っているのとは対照的に、我々は最初からデジタルでスタートし、今後デジタルへの移行が進む中でいいポジションにあると考えています。また、海外への出稼ぎや移住のトレンドはこれからも続くと予想しています。

ただ、短期的にはコロナ禍による挑戦がありました。ロックダウンによってキャッシュの受け取り場所が閉店し、お金が受領できなくなりました。これは、運営上の難題でしたが、同時にデジタル化を加速させる結果にもなりました。キャッシュに頼っていると、感染のリスクに晒されるので、デジタルでの方法を探ってみようということになったのです。同時に我々の側でも、フィリピンで3種のモバイル・ウォレットと提携するなど、危機下で対応しました。移住のトレンドも今後1年は下がることが、各国政府によって予想されています。

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