No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

Series Report

身の回りには、活用されていないエネルギー源がたくさんある

近年、超小型の水力発電所を、街や社会インフラの、そこかしこに設置する動きが広がってきた(図4)。身の回りにある使われないまま放置されているエネルギー源を、きっちりと有効活用しようとする動きだ。

水道管や農業用水路などには、当たり前ではあるが、水が流れている。こうした水流には確実にエネルギーが潜んでいるのだが、それが利用されることはほぼなかった。これが、様々な水路の水流を電力に変える「マイクロ水力発電」を導入することで、身の回りにあるエネルギーを電力に変えることができるようになる。既に、保有するポンプ場にマイクロ水力発電の設備を設置して、電力会社に販売し、貴重な財源とする自治体も出てきた。

例えば、京都府長岡京市では、ポンプ場の水道管同士のつなぎ目に最大出力25kWのマイクロ水力発電システムを設置して、管の中の水流で水車を回し、年間18万4000kWhの電力を生み出している。これは、一般家庭56軒分の電力を賄える電力に相当する。ダムを利用した大規模な水力発電所の出力は、100万kWを超える。マイクロ水力発電は、規模自体は1万分の1にも満たない。それでも、身近な場所での電力消費に利用するには十分な電力が得られる。同市では、別の水道施設にもマイクロ水力発電システムを導入する計画を持っている。この他にも、複数の自治体で同様の動きが出てきている。

[図4]身の回りの水の流れから電力を得るマイクロ水力発電
長岡京市に導入されたマイクロ水力発電システムの構成(左)、NTNが開発したマイクロ水力発電システム(右)
出典: DK-Power(左)、NTN(右)
身の回りの水の流れから電力を得るマイクロ水力発電 身の回りの水の流れから電力を得るマイクロ水力発電

人間の生活空間の身近には、必ずと言っていいほど水が流れる場所がある。農林水産省の調査では、日本には総延長40万kmもの農業用水があるという。地球10周分に及ぶ規模であり、これをエネルギー源と考えれば、まさに宝の山だ。また、環境省と厚生労働省が2016年にまとめた調査では、全国の水道施設のうち、マイクロ水力発電が可能な候補地は563か所もあるという。そこで電力を生み出すことができれば、電力の地産地消に一歩近づく。

自然にあるエネルギーを使う水力発電は、極めてエコな発電手段である。しかも、太陽光発電や風力発電に比べて発電量が安定しているメリットもある。しかし、比較的適地が多いと思われる日本でも総発電量に占める割合は7.4%と多くない。なぜこれまで、水力発電はもっと利用されることがなかったのか。発電所を設置できる場所が限定され、しかもダムの建設などコストも巨額になるというのが、その理由である。

ならば、なぜ身近な場所にある水の流れは、発電に活用されてこなかったのか。これまでは、水量が少なすぎる、流れが緩やかすぎるため、発電には適さないと考えていたからだ。少ない水量、緩やかな流れの水流を使って水力発電する際には、発電機の摩擦や抵抗などのロスを最小化して、効率的に電力に変える仕組みが必要になってくる。これまでの技術では、この点が実用レベルに達していなかったため、身の回りの水流のエネルギーを活用できなかったのだ。

ここに、自動車や家電製品、産業機械を高性能化するために開発した、高度な機械技術を投入することで、発電効率が急激に高まった。具体的には、高精度のベアリング製造による軸受で培った、滑らかに回転する仕組みの導入や、流体力学を用いた解析技術によって、乱れがちな水流をなめらかな回転運動に変えるシステム構造を設計することで、発電効率を高めた。加えて、エアコンを制御する際のパワーエレクトロニクス技術や高効率モーターを作る技術の投入によって、機器の小型化、低コスト化も図った。例えば、軸受メーカーであるNTNは、流体力学を駆使して発電用水車の翼の形状を工夫し、離れた翼先端に水の力を集めて回転軸に伝わるトルクを高めた。さらに、水車に当たって発生した渦が水流を乱さないような翼の形状を導き出すことによって、同じ水路に複数台の水車を直列に設置できるようにもなった。

火山大国ニッポン、災害だけでなくメリットにも目を向ける

日本は世界有数の火山大国だ。温泉が湧くといった分かりやすいメリットもあるものの、噴火や地震など自然災害の頻発というデメリットの方に目が行きがちだ。しかし、火山大国ならではのメリットに、もっと目を向けた方がよいのではないか。化石燃料はほとんど産出せず、太陽光発電に向いた晴れの日が続く広大な土地もない日本は、災害を起こす要因さえ利用するしたたかさが必要かもしれない。火山エネルギーを活用する地熱発電は、エネルギーの量が安定しているため、発電量が時間や天候に左右されない利点がある。これを利用しない手はない。

地熱発電は、マグマによる地下の熱エネルギーを利用する発電技術である。地中奥深くの高温マグマ層が、地中に浸透した雨水を高温高圧の蒸気や熱水に変える。その蒸気や熱水が地下1000〜3000m付近に蓄積されていく。これを掘り当てて取り出し、タービンを回して発電する。

第1次石油危機を経験した日本では、1970年代に、地熱発電の活用拡大を目指して、その開発や導入に多額の補助金が支給されていた。しかし、地熱発電は地熱資源調査の難しさ、それに費やす多額なコストを要する事業であったことから、補助制度が撤廃されると次第に廃れてしまった。また、分かりやすい地熱発電に適した立地は温泉地と重なるため、地熱発電設備の設置が源泉に影響を及ぼす懸念から地元の賛同が得られにくい側面もあった。

こうした閉塞感を一掃するのがダウンサイジングである。東芝エネルギーシステムズは、「Geoportable」と呼ぶ1~20MW級の小型地熱発電システムを開発して、販売している(図5)。耐腐食性の高い材料技術や、高性能化を実現するタービン蒸気通路部の設計など、先進的技術を投入してシステムを小型化。従来設置できなかった狭い敷地でも設置可能にした。小型であるため、本来ならば発電に適さない温度の蒸気や熱水を使って、手軽に運用することができる。日本では、熊本県阿蘇郡小国町などに、さらには日本と同様に火山大国であるインドネシアやエチオピアなどにも輸出している。

[図5]東芝エネルギーシステムズの小型地熱発電システム「Geoportable」
システム構成(左)と熊本県阿蘇郡小国町に設置した例(右)
出典:東芝
東芝エネルギーシステムズの小型地熱発電システム「Geoportable」 熊本県阿蘇郡小国町に設置した例
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