連載01
ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流
Series Report
廃物に潜む価値を引き出す
一般に、工業製品を作る際には、原料の中から有用な部分だけを抽出して利用し、余分は廃棄してしまった方が、安価で効率よく作ることができる。また、農産物も製品として出荷するのは作物のごく一部だけ。これもまた余分は廃棄してしまう。しかし、捨てられた部分が、本当に何の役にも立たないかと言えば、そうとも限らない。ただ、利用する側の価値観に合わなかっただけである。真剣に利用方法を考えれば、これまで捨てていたモノの中に潜む価値を引き出すことが可能だ。バイオマス発電は、まさにこうした発想に基づく発電方法である。
バイオマス発電の燃料となる生物資源は、比較的安定して調達できる。このため、日常使いの電力を供給する手段にしやすい。また、本来ゴミとして破棄されるものを活用しているので、処理手段ともなり一石二鳥だ。さらに、生物資源を生み出す地場産業と合わせて地域経済の活性化にも寄与する。ただし、大電力を生み出すだけの量の生物資源を定常的に得られるのは稀で、調達可能な燃料での運用をしていくためには小型の発電設備の方が都合がよい。発電施設をダウンサイジングできれば、その活用シーンは広がる。
こうしたコンセプトに基づいてダウンサイジングしたバイオマス発電システムが相次いで開発されている。例えば、木質バイオマスを使った熱電併給型の小型発電プラントであるフィンランドのVolter製の「Volter 40」は、高さ約2.5m、長さ約4.8m、幅約1.3mの設備で、40kWの電気と100kWの熱を作り出す。調達可能な燃料の量に合わせて設置台数を増やして運用できるため、スケーラブルなシステム構築が可能だ。
安全性が確保できるサイズで原子力を活用する
最後に、これまでとは異質な発電所のダウンサイジングの例を紹介したい。東日本大震災での原子力発電所の事故以来、原子力を中心に電力供給を考える機運は消え去った。確かに、原子力発電は一度事故を起こせば、取り返しのつかない事態を引き起こし、それに対処するコストも莫大になる。ただし、世界に目を転じれば、原子炉をダウンサイジングすることで安全性を高め、安全性を確保できる範囲での利用法を考える機運が徐々に高まってきている。これまでは、必要とされる量の電力を生み出す原子力発電所を、いかに安全なものにするかという発想で技術開発が進められてきた。現在、開発が進められているのは、逆の発想に基づく原子力発電技術だ。安全性を確保できる原子炉のサイズはどのくらいで、それをいかに効果的に活用して発電していくのかといった発想で、技術開発が進められている。
「小型モジュール炉」や「マイクロ原子炉」と呼ばれる、ダウンサイジングした原子炉で使用する核燃料は、ごく微量である。微量の核燃料をコーティングして、いかなる緊急事態が発生しても、メルトダウン(炉心溶融)を起こさない微細構造を作る技術も開発されている。さらに、小さな原子炉はまるごとプールに沈めて冷却して、万が一漏出しても熱がプール内の水に拡散して制御不能な状態になっても暴走することがない。そして、利用する際には、安全を確保した小型モジュール炉を複数基接続することで、大きな電力を得る。つまり、電力需要に応じて、使用数を柔軟に変えて発電所を構成できるのだ。安全を確保できる大きさの内輪で作られたモジュールは、輸送することも可能である。
こうしたダウンサイジングした原子炉を開発している企業として、アメリカのNuScale PowerとOklo Powerが知られている(図6)。NuScale Powerの小型モジュール炉「NuScale」の大きさは、高さ19.8m、直径約2.7mと、原子炉としては極めて小型だ。それでいながら、1基で60MWの出力が得られる。アメリカの原子力規制委員会(NRC)は、2016年からNuScaleの設計認証審査を実施している。認可が下りれば、同社は初となる商業用小型原子炉の建設を開始できるようになり、早ければ2026年にも、アメリカ西部の複数の州に電力の供給が開始される可能性がある。一方、Oklo Powerのマイクロ原子炉「Aurora」は1.5MWとさらに小型で、それを収めた発電所の外観は、大自然の中の山小屋といったものである。よく知る原子力発電所のイメージとは全く異なる。原子炉をダウンサイジングし、安全性を高めれば、従来の原子力発電所に課せられる10マイル(約16km)の緊急時計画区域が不要になるという意見もある。つまり、電力需要がある場所の近隣に原子炉を設置できるようになるというのだ。同社は既に、エネルギー省から自社のマイクロ原子炉初号機をアイダホ国立研究所に建設する認可を取得したことを発表している。
次回は、私たちの健康管理のあり方を一変させる「病院のダウンサイジング」に関連した技術の開発と実用化について解説する。
Writer
伊藤 元昭(いとう もとあき)
株式会社エンライト 代表
富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。
2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。