No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載02

アスリートを守り、より公平な判定を下すスポーツテクノロジー

Series Report

ITツールが揃ってきた

ここ5年くらい、データで体調を可視化するとかケガを予測するという意識が高まってきた。同社は競技の現場で使いやすいデバイスを提供したり、意味のあるデータをとれるようにしたりしている。さらに日本のスポーツリテラシーをもっと上げるような啓蒙活動につなげたい、としている。

アスリートの身体能力を上げるためにデータに裏打ちされたスポーツテクノロジーを使うようになってきた要因は、三つある。クラウドのデータベースを安く使えるようになってきたこと、そしてセンサーが小さく軽く安く、しかも高精度で手に入るようになってきたこと、さらにデータ解析するための機械学習のサービスが使えるようになってきたことだ。この仕組みに使われる部品やソフトウエアなどが安くなってきたことが総じて大きい。

ただし、いずれのファクターも海外勢が強いため、日本はデータを活用するという点で遅れていた。例えば、GPS(Global Positioning System)やGNSS(Global Navigation Satellite System)などの位置情報デバイス、相手との距離を測る測位レーダー、あるいは3次元画像を表現するレーザーなどの製品を出している企業が日本にはあまりにも少なく、上位10社には入っていない。とはいえ、希望はありそうだ。クラウドでデータを管理し、データを活用するという点では日本と海外との差がほとんどないからだ。

選手のコンディションと負荷の最適化

では、具体的にどのようにデータを取得し管理・活用するのか。「One Tap Sports」では、このウェブサイトに問い合わせてくるケースが多いようだ。ただし、スポーツテクノロジーは手段であって目的ではない。だからこそ、選手のケガを減らしたい、走れるチームを作りたい、強くなりたい、という要求が始めにくる。

どのセンサーデバイスをどう装着し使っていくか、からコンサルティングを始めて、データを取得し始める。その客観データだけではなく、実際に運動するアスリート本人の主観データも集める。調子が良いのか、コーチは選手に問診しながら、主観データを作っていく。また実際にアスリートの身体を触って筋肉の硬さや張りなどをチェックする。さらに日々の活動・練習のデータ、その結果生まれるコンディションなどのデータを収集する。

このコンサルティングサービスは、プロ・社会人コースと、ユースコースの2種類の料金コースがあり、それぞれ選手一人につき利用料金は800円/月からと、300円/月からがある。

カナダは日本よりも一足早くスポーツテクノロジーで実績を上げている。例えば、アスリートモニタリング(Athlete Monitoring)社は、クライアントに対して、活動データやコンディションのデータ、そして結果データをためておき、それらのデータをケガの予測のために活用する。

具体的には、アキュート(Acute:急性)クロニック(Chronic:慢性)という二つのデータで運動状況を表す(図1)。アキュートは3〜7日間の負荷で今この瞬間に表れるデータを意味し、クロニックは21〜28日間の平均的負荷でこれまでの推移を表すデータである。例えば、アキュートが急に上昇のカーブを描くようになると、これは間もなくケガが発生しやすいというような危険と判断する。同社は、こうしたデータをできるだけブラックボックスにせずに見せるようにしている。実際、前週までの練習負荷よりも15%増やすと、ケガをするリスクは最大50%まで増加するという。

[図1]ケガのリスクと負荷をかけたことによる能力向上の関係
両者の関係をACWR(Acute: Chronic Workload Ratio)という指数で表し、A:Cレシオが1.5より高まるとケガのリスクが高まると警告を出す。青い領域がまだ練習が必要、緑が最適な負荷、オレンジがリスクに近づいていることを示し、赤はケガのリスクが高まることを表している。
出典:Athlete Monitoring
ケガのリスクと負荷をかけたことによる能力向上の関係

予測するためにはデータ量は多ければ多いほど良い。このため、コンサルティング企業は「ケガは起きてほしくないが、もし起きた時のデータは珠玉の価値がある」と言う。ケガはどういう状況で、どういう負荷をかけて、本人がどう感じているのか、センシングデバイスのデータはどうだったのか、どういうときにどの程度のケガが発生した、というようなデータをしっかり残しておく。データがたくさんたまっていれば、その後のリハビリでどのような治療をしたというデータも加えておく。そして再発したかどうかのデータもしっかりためておく。こうしたデータをためておき、ケガが起きた時と起きなかった時の分析を行えば、その精度はますます上げられる。

スポーツごとに処方箋は異なる

ただ、同じスポーツといっても、例えばバレーボールとラグビーでは、取得すべきデータが全く違うため、処方箋も全く異なる。例えばバレーボールの負荷は、ジャンプとその高さや飛んでいる回数などのデータが必要で、しかもケガのリスクが高い箇所は膝である。着地の衝撃が強いからだ。これに対してラグビーでは、走行距離やタックルの回数、加速・減速、などのデータをとる。

競技によってシーズンに渡って試合するリーグ戦と、短期決戦のトーナメント戦があるが、これもそれぞれ異なる。プロ野球は4月から10月、あるいは11月ごろまで試合を行う。選手のコンディションは4月がピークで、10月までのシーズンに渡ってどれだけピークを長く保つことができるかが重要となる。これに対して、ラグビーのワールドカップのようなトーナメント戦は試合に合わせてコンディションをピークに持っていく。試合の開催にコンディションのピークを合わせ、試合が終わると急速に落とし、回復させる。そして再びコンディションを徐々に上げていく。この繰り返しがトーナメント戦になる。そして勝つためには同じ場所で同じコンディションを作る必要があるため、本番の1年前に同じ場所で試すことが重要になる。

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