No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載02

アスリートを守り、より公平な判定を下すスポーツテクノロジー

Series Report

最初はクリケットの判定に使われた

このボールトラッキングやビデオ判定の大きな進化を成し遂げたイギリスのHawk-Eye社が設立されたのは2001年。この技術が生まれたのは、イギリスで人気の高いクリケット競技だった。クリケット競技は、ボールを投げる人(野球のピッチャーに相当)がバッターの後ろにあるウィケットと呼ばれる標的に向けて投げ、バッターはウィケットを守るためにボールを打ち返すというスポーツ。投げる時点からのボールの軌跡をトラッキングするために放送で使われたのが最初だという。

今でもクリケットにこの技術が使われる例が多く、次がテニス、そしてサッカーという順に使われてきた。ラグビーにもTMO(Television Match Official)と呼ばれるビデオ審判システムが導入されるようになり、今や25種類のスポーツで何らかの判定サービスに使われている。その結果、年間90か国、500以上のスタジアムで、15,000件の試合やイベントで活用されている。変わったところでは競馬にもビデオ判定が使われており、斜めに走る斜向のチェックに用いられている。またモータースポーツでもアメリカのNASCAR(全米自動車競走協会)が主催するレースに使われており、クルマのサイズがすべて一定かどうかをチェックしたり、クルーの出入りの違反がないかどうかを確認したり、あるいは陸上のリレー競技でのバトンの受け渡しのチェックなどにも使われているという。

ボールトラッキングとビデオ合成再生

Hawk-Eyeの技術は、スポーツに合わせてカメラの台数を変えるといった、競技ごと、あるいは試合ごとにカスタマイズが必要である。テニスだとおおよそ10台のカメラを使うのに対して、サッカーでは一つのゴールに6〜7台必要だから、会場を14台のカメラでトラッキングしている。またビデオ判定では、ドイツのブンデスリーガなど通常のサッカーの試合では12台のカメラで放送するが、ワールドカップでは35台のカメラを使った。競技ごとにビデオ判定に重きを置くべきところが違う。

この技術は大きく分けて、ボールトラッキング(ボールの軌跡)とビデオリプレイの主に二つの機能がある。ボールトラッキング技術は、打ったり投げたりするボールの軌跡を追いかけて解析したり判定したりする。ビデオリプレイは、文字通りビデオ(映像)を再生する訳だが、単なる再生ではなく、多数のカメラ映像を合成して、ボールをグラフィック表示に変換して再生することで公平な判定を行う。

ボールトラッキング技術やビデオリプレイ機能は、審判の判定を支援するが、判定結果を待っている間から結果が放送される時間をファンと共有する。テニスの「チャレンジ」は判定が出るまでに数秒かかるため、試合が中断されるこの時間が試合のリズムを崩すとして嫌うプレイヤーがいるという(参考資料2)。

クリケットでは、ウィケットを身体で隠してはいけないというルールがあるが、これを判定するのにもビデオ再生が使われている。バレーボールでは、タッチネットの有無をビデオ判定する。2019/20シーズンからVリーグでもHawk-Eyeのチャレンジシステムを採用した(参考資料2)。Vリーグのシステムでは、タッチネットなどのフォールトを検出するカメラ2台、両サイドのネットに向かう向きにカメラを4台ずつ配置しブロックやタッチを検出したり、ライン際でのボールの位置を検出したりするといった判定に使う。加えて、バレーボールでは、スパイクを打つボールの軌跡が描かれると、観客の満足度は上がるという。

写真:muzsy / Shutterstock.com

ブームの背景はフェアプレイと技術の進歩

この技術が広がりを見せる理由の一つは、フェアプレイを期待できるからだ。観客自身が自分のカメラで画像・映像を撮れるようになった今、誰かがフェアな画像を撮っているはずである。その人がSNSで画像を発信すれば、何がフェアな画像なのか、明らかになってしまう。ならば、ゲームにこのシステムを導入し、フェアな判定を全観客に見せる方が信頼を増すことになる。

また、後述するように、技術的な進歩も導入を後押しする。カメラの性能や映像解析アルゴリズムの進歩はビデオ判定の時間を短縮し、今や1秒以内に判定できるようになっている。テニスではチャレンジシステムができた時に、mm単位の精度が要求され、それに応えるように技術が開発されたという。

ボールトラッキングはテニスやサッカーで威力を発揮

テニスでは、チャレンジを1試合3回までと決められているが、試合全てにわたってボールトラッキングが使えれば、逆にチャレンジそのものがいらなくなる可能性がある。実際2017年11月に行われたATPツアーでは、試合を通してボールトラッキングシステムを使い、微妙な判定にライン判定システムを使ったという。

FIFA(国際サッカー連盟)のライセンスを初めて取得したゴールラインテクノロジーというシステムは、サッカーボールがラインを超えたことを確認する。英国のイングランド・プレミアリーグでは、2013/14のシーズンに導入され、ドイツのブンデスリーガでも2015/16シーズンから導入され、イタリアのセリエAにおいても使われている。

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