No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載01

デジタル時代で世の中はどう変わるのか

Series Report

デジタル化を実現するために必要なアナログ回路

だからこそ、長年エレクトロニクスに携わってきた人間にとって、デジタル化という言葉には違和感があるようだ。というのは、スマートフォンやIoT端末に使われるアナログ回路は今後ますます増えていくからだ(図1)。スマホやIoT端末の中に入っているセンサは、元々電気(電圧や電流、電力など)ではない物理量を電気に変換するデバイスであり、ほとんどアナログ信号として取り出している。ほかにもスマホには、圧力センサや加速度センサ、ジャイロセンサ、温度センサ、磁気センサなど、さまざまなセンサが搭載されており、しかもアナログICもふんだんに入っている。

[図1] 1980年から現在までアナログICの比率は増えている
出典:IC Insightsプレスリリース(2014年7月)
1980年から現在までアナログICの比率は増えている

最新型のデジタル機器ほど、実はたくさんのアナログICが使われているのだ。ユーザーエクスペリンスと呼ばれる人間にとって親しみやすい機能は、全てアナログ回路で実現し、その後でデジタル回路に変換している。人間の自然なふるまい、ジェスチャーや手足の動き、音声、頭を振るようなしぐさなどは、全てアナログ。だからこそ、人間とのインターフェースはアナログでデータを拾い、演算や制御などの処理を容易にするためデジタル変換する。

それでも、新しさを表現するために、あえて「デジタル」という言葉で表現しているのが現状なのである。デジタルやITという言葉を使えば、新しさを感じるからだ。「デジタル=新しい」「アナログ=古い」という図式だが、実はデジタル技術そのものはもう50年以上前からある。アナログICも同じような時期からあるが、30年以上前から取り続けているデータによるとアナログICはずっと増え続けているのだ。

エレクトロニクス技術がようやく社会に浸透

しかし、今までエレクトロニクス技術は社会まで浸透してこなかった。工場は自動化されても、オフィスでは人海戦術がまかり通っていたからだ。かつて、オフィスからは紙がなくなると言われたが、実際は紙の消費量はむしろ増加している。紙ベースで作業しないと仕事をした気にならないという古い人間もいまだに多い。そのため、オフィスへのエレクトロニクス技術の導入は非常に遅れていたのだ。

最近になってようやくオフィス業務の改善が叫ばれるようになり、省エネ化やITロボット(RPA:ロボティック・プロセス・オートメーションという、ソフトウエアで作る自動処理装置のこと。フォーマットの異なる情報を一つにまとめる、さまざまなウエブサイトから簡単なURLなどの情報を取っていく)の活用による残業削減などが実行段階に入りはじめた。ここで使われているのがコンピュータ技術であるため、一般にデジタル化というイメージが生じているのだろう。しかし、エレクトロニクス技術に含まれるのは、コンピュータ技術だけでなく、通信技術、半導体技術、そしてアナログやデジタルの回路技術も含まれる。

エレクトロニクス化のカギはコンピュータ

これまでもこれからも、最大の技術要素はやはりコンピュータ技術である。コンピュータというのは、ハードウエアを共通にして、ソフトウエアを変えるだけで自分の欲しいマシンに変えられる機械である。だから、必ずしも「コンピュータ=計算機」ではない。コンピュータはもちろん計算もするが、むしろ多くの場面で使われる機能は、データを交通整理する制御機能である。例えば、ワープロソフトで文字を書く場合、コンピュータは計算をせず、キーボードで打たれた文字列の変換を行っているにすぎない。「あい」と打てば「愛」「会い」「合い」「相」「藍」などの漢字を候補として表示してくるだけで、人間がその中から正解を指定する。ここでは、文字列の候補をメモリに記憶させておき、「あい」と読む漢字を読み出しているだけだ。どの順番で表示するかは制御するソフトによって変えることができる。

コンピュータ技術はもはや目に見えなくなってきており、人間生活や働く場所などあらゆるところに埋伏されるようになった。このことをコンピュータトランスペアレントと呼ぶ業界人もいる。最も大きなコンピュータはスーパーコンピュータやメインフレームであるが、最も小さなコンピュータはパソコンやスマホではなく、ほとんどの電気製品の内部に使われているマイコンと呼ばれる半導体チップだ。たとえば自動車には、コンピュータ(ECUと呼ばれる)が数十台も入っている。

繰り返しになるが、コンピュータ技術の最も重要なことは、ソフトウエアを変えることでいろいろな用途に使えることだ。コンピュータが生み出されたきっかけは、ミサイルの弾道を計算するためであったが、今は計算よりもはるかに制御する目的が増えている。計算も制御もソフトウエアでカスタマイズできるが、ソフトウエアの進歩だけでは性能に限界が来るので、ハードウエアとソフトウエアは、歩調を合わせながら進歩してきた。またハードウエアは半導体技術の進歩により、小さく軽く、しかも安く作ることができるようになっている。

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