No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

まず、電力は発電所で「発電」される。その電力は、電圧変換や分配などの処理を経ながら電力網を介して家庭に送られる。家庭内でもさらに電圧変換や分配を経てスマートフォンに電力が供給される。ここまでの電力を送る機能をくくると「送電」と呼ぶことができる。今回のテーマである電源コードは、送電のための手段の1つであると言える。

さらに、スマートフォン内ではバッテリーに電力が蓄積され、一定時間どこでも利用できる状態になる。この機能を「蓄電」と呼ぶ。そして最後に、スマートフォンの通信機能やソフトを動かす情報処理機能を利用するために、電力を消費する。そして、消費電力を減らすための技術を「省電」と呼ぶことができる。

電源コードをなくすため、「発電」「送電」「蓄電」「省電」のそれぞれに、どこにどのような技術を導入すればよいか考えてみよう。まず、そもそも電源コードが必要になるのは、電力を消費する機器と発電所が遠く離れているからだ。消費する機器と発電機能が一体化すれば、送電は不要となる。これが1つめのアプローチだ。また、電源コードは送電の手段なのだから、ここを無線化してしまえばコードはなくなる。これが2つめのアプローチだ。つまり、電源コードの撲滅には、「電力の地産地消」と「無線送電」の2つの方法があることになる。

ただし、現存する発電所が巨大な施設で、電力網が大規模なシステムであることからも分かるように、大きな電力を生み出し、送る仕掛けというのは大がかりなものだ。いかに技術が進歩したとはいえ、大電力を地産地消したり、送電無線化したりすることは困難である。しかし、機器内に省電もしくは蓄電の高度な技術を投入すれば、2つのアプローチを適用できる範囲は広がっていく。

電力を地産地消するエネルギーハーベスティング

ここからは、2つの電源コード撲滅手法のうち、電力の地産地消に絞って技術開発の動きを紹介する。

電力を地産地消する技術は、「エネルギーハーベスティング」と呼ばれている。「環境発電」と呼ばれる場合もある。人の歩行や橋・道路などの振動、室内の照明光、クルマの廃熱、テレビ放送の電波など、身の回りの環境に存在するエネルギーを収穫(ハーベスト)して電力に変え、利用することからこのように呼ばれる。自然界に満ちたエネルギーを力に変えるというのは、ファンタジー小説に出てくる魔法の設定のようだ。近年、IoTの利用が活発化したことで、この魔法のような技術に、にわかに注目が集まり始めた。

ただし、エネルギーハーベスティングによって得られる電力は、1台の発電デバイス(ハーベスタと呼ばれる)あたり1μW〜1W の範囲で、大きくはない(図3)。そのため、スマートフォンで消費する電力をすべてまかなえるほどの大きな電力は得られないのだ。これは、環境の中にあって取り出せるエネルギー自体が小さいことによる。

[図3] エネルギーハーベスティングで発電できる電力の範囲
出典:Analog Devices社の資料を基に作成
エネルギーハーベスティングで発電できる電力の範囲

また、エネルギー源の種類によって、得られる電力に大きな違いがある。広い意味ではメガソーラーや風力発電、地熱発電といったkW〜MW級の商用電力を賄う技術もエネルギーハーベスティングの一種であると言える。しかし、こうした再生可能エネルギーは、機器を利用する場所に置くことができないため、電源コードの撲滅という目的には活用できない。

電気・電子機器における、エネルギーハーベスティングによって得られる電力が小さいのに注目が集まる理由は、省エネルギー化では得られない圧倒的な使い勝手の向上が実現するからだ。

例えば、IoTシステムで使われるセンサ機器を電池駆動にする場合、その保守費用の約7割を電池交換の人件費が占めるという。エネルギーハーベスティングは、「ノーメンテナンス」によるコスト削減の効果が極めて大きい。また、塔のてっぺんなど何度も人が入り込めない場所に置いたセンサ機器では、それがたとえ微小な電力しか消費しなくても、巨額の敷設費を掛けて電源線を引かなければならなかった。しかし、エネルギーハーベスティングを活用すれば、敷設工事は一切不要になる。その他、頻繁に展示物のレイアウトを変更する美術館のように、電源線の敷設工事が難しい施設は結構多い。

実用化している「光」「熱」「振動や運動」「電磁波」の活用

実は、エネルギーハーベスティングというコンセプト自体は、目新しいものではない。世界で初めて普及したエネルギーハーベスティングの応用製品は、1900年代の初頭にラジオの公共放送開始と共に普及した鉱石ラジオであろう。鉱石ラジオは、ラジオの電波のエネルギーだけを使って、検波し、さらに信号を音声に変換する。そして1930年代に発明されたのが、今も身近な自転車のライトを灯すダイナモである。また、腕時計は、太陽光発電で動くもの、腕の動きで発電して動くもの、体温で発電するものなど、様々なエネルギー源を使った製品が登場している。

今、エネルギーハーベスティング関連では、より多様な環境エネルギーを電力に変換する技術、電力への変換効率を高める技術の開発が進められている。電気・電子機器は多用であり、活用可能な環境エネルギーが利用シーンごとに異なるため、より多様な発電手段を手中にできれば利用シーンが広がるはずだ。また、電力の変換効率を上げれば、得られる電力が大きくなり、適用可能な機器が増えるだろう。

現在、エネルギーハーベスティングに使われている環境エネルギーは、大きく4つある。「光」「熱」「振動や運動」「電磁波」がそれで、発電に使われる素子であるハーベスタも、それぞれ異なる。基本的にハーベスタというのは、環境エネルギーを受け取る部分を大きくすれば、得られる電力も大きくなるものだ。しかし、ハーベスタを大きくしてしまうと、それを搭載する機器の自由度を奪ってしまうため、無闇に大型化することはできない。なお、光と熱をエネルギー源とするハーベスタは直流電力を、振動や運動、電磁波をエネルギー源とするハーベスタは交流電力を生み出す。以下、それぞれの特徴と最新技術を見てみよう。

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