No.016 特集:宇宙ビジネス百花繚乱

No.016

特集:宇宙ビジネス百花繚乱

連載02

電子機器から自由を奪う電源コードをなくせ

Series Report

大きなモノから小さなモノまで、あらゆる振動を電力に

振動や運動をエネルギー源とするエネルギーハーベスティングは、モーターやエンジン、橋や道路などの振動、さらには人間の歩行による揺れなどを電力に変える。ハーベスタの原理は、圧電素子を使うものや、素子の動きを静電誘導や電磁誘導によって電力に変えるものなど様々なものがある。得られる電力の大きさも様々で、機械や建造物の振動などからは10㎠あたり約10mWの電力が得られるが、人間の動きからは1μWしか得られない。

圧電素子は、物体を伸ばしたり縮めたりしたときに電圧が発生する「圧電効果」を利用したハーベスタである。この方式は、素子構造が単純なため、ハーベスタの小型化に向いている。その一方で、性能は材料の選定次第であり、細かい特性のチューニングは難しい。

一方、静電誘導方式と電磁誘導方式はハーベスタ内部の2つの部品の相対位置の変化を電圧変動に変えて発電するため、材料の選定など設計の自由度は高い。このうち、静電誘導方式は、帯電したコンデンサの電極の間の距離を変えると、静電容量が変わり電極間の電圧が変わる現象を活用する。最近では、半永久的に帯電させたエレクトレットという材料を使って電極を作ることが多い。また、電磁誘導方式では、磁石とコイルの間の相対的な位置関係が変わることによって、コイルに誘導電流が流れる現象を利用する。原理的には、発電所の発電機に使われているものと同じであるため、発電効率が良い。

道路などの建造物では、大型のハーベスタを常時振動しているような場所に敷設することで、大電力を得ることができる。かつて、乗降客が多い東京駅で床の振動を電力に変える技術の実証実験が行われたことがあった(図6)。改札口に圧電素子を埋め込み、駅利用者がその上を歩行することで発電し、乗降客の多い日には1日あたり940kW秒の電力量が得られたという。

[図6] 駅利用者による歩行の振動で発電
(上)発電システムの構成、(下)実験でシステムを敷設した様子
出典:JR東日本のプレスリリース
発電システムの構成
実験でシステムを敷設した様子

ハーベスタの小型化や発電効率の向上も目覚ましい。アメリカのMicroGen 社は、半導体加工技術を応用して作った小型の振動発電用ハーベスタを製品化した。約1.0㎠のチップ内には、圧電材料の薄膜を形成した微小なカンチレバー(片側梁)が作られており、チップが振動するとカンチレバーの一端に質量負荷が掛かり、電力が発生する仕組みである。120Hzで0.1G以上の振動で約100μW、600Hzで0.5G 以上の振動で約900μWの電力を生成するという。

また、静電誘導方式と新素材を投入して、発電量を飛躍的に向上させた研究成果もある。アメリカのテキサス大学は、カーボンナノチューブをより合わせて繊維状の大容量キャパシタを開発した(図7)。これを帯電させて30Hzで引っ張ると、何と重量1kgのハーベスタで最大250Wもの電力を得ることができるという。

[図7] テキサス大学が開発したカーボンナノチューブをより合わせて作った大容量キャパシタ
出典:テキサス大学のプレスリリース
テキサス大学が開発したカーボンナノチューブをより合わせて作った大容量キャパシタ

テレビ放送塔が発する電波を電力に変えて利用

電磁波をエネルギー源とするエネルギーハーベスティングでは、テレビやラジオ、携帯電話、無線LANなどの電波を、レクテナ※2という素子を使って電力に変える。しかし、電磁波から電力を回収する技術は、電磁波が伝搬する空間の状況の影響も大きいため、なかなか難しいようだ。今のところ10㎠のハーベスタから得られる電力は、約1μWにすぎない。

しかし、この技術開発に取り組む企業は多く、技術レベルは急激に高まっている。それは、電源コードを撲滅するためのもう一つの方法である、送電の無線化につながるからである。送電を無線化したとき、電力を受ける側は、電磁波を対象にしたハーベスタになる。

アメリカのIntel社は、約4.1km離れたテレビ放送塔からの電波をベランダに設置したアンテナで受け、60μWの電力を得て液晶ディスプレイ付きの温湿度計を動かすことに成功した(図8)。また、ルネサス エレクトロニクスも、出力250mWの無指向性の電波源(2.4GHz帯の無線LANなど)から60cm離れた場所で、10μWの電力を回収する技術を発表している。

[図8] テレビ放送塔の電波から電力を取り出し、温湿度計を動かした
出典:Intel社
テレビ放送塔の電波から電力を取り出し、温湿度計を動かした

生物が秘めた力で、携帯電話を充電できる電力を生み出す

最後に、ここまで解説してきた4つのエネルギー源以外を活用する、新しいエネルギーハーベスティング技術を紹介したい。いずれも、生体の仕組みを利用した発電技術であり、ウエアラブル機器や体内埋め込み機器への応用が想定されている。

アメリカのマサチューセッツ工科大学は、樹木の根に電極を差し込むことで周りの土との間に発生する50m〜200mVの電位差を、電力として活用する技術を開発した。これにより、μW級の電力を得ることができるため、温度センサや湿度センサに活用し、山火事の早期発見システムへの応用が想定されている。

アメリカのProteus Digital Health社は、胃酸による化学反応を応用した発電技術を開発した。薬の錠剤に微小な半導体チップを埋め込み、胃酸発電で得た電力でIDを無線送信し、投薬を管理する。この技術は大塚製薬が製品化する予定である。

コロンビア大学は、細胞内のミトコンドリアが産生するATPと呼ばれる物質をエネルギー源として、電子回路を作動させることに成功した。生物の細胞膜には、「ナトリウム-カリウムポンプ」と呼ばれるたんぱく質がある。これはATPを消費して、ナトリウムイオンを3個細胞外に放出し、カリウムイオンを2個細胞内に取り込むという機能を持っている。ここで生じるイオン濃度差で電子回路を動かすのだ。

これらの技術からは、アイデア次第で、エネルギーハーベスティング技術の幅は、まだまだ広がりそうなことが分かる。次回第2回では、電源コードを撲滅するためのもうひとつのアプローチ、送電を無線化する技術開発の動向について解説する。

[ 脚注 ]

*2
レクテナ: 交流を直流に変える整流器を意味する「rectifier(レクティファイアー)」とアンテナを組み合わせた言葉である。電磁波をキャッチして得た交流を直流に変換して使う素子ということだ。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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