No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

Expert Interviewエキスパートインタビュー

スーザン・シャヒーン氏

── 市のレベルでも、テクノロジーがわかる方が増えているのですか。

それは市にどれほどの財源があるかによって異なります。例えば、サンフランシスコ市のように潤沢な予算のある市は、非常に有能なデータ分析ができるスタッフを抱えています。

ところが中小規模の市には、そうした資金がないことも多い。しかし、規模が小さいからこそ、そうしたイノベーションを歓迎する場合もあります。というのも、はなから交通渋滞で悩む必要もなく、通行権の問題も生じないからです。もう一つ重要な点として、コンテキスト(文脈)──つまり時間や地理空間のスケールによって、都市ごとの反応が異なり、政策もそれに合わせるべきだということ──を理解しなくてはなりません。都市中心部の午前8時と、郊外の午前2時では、需要はまるで違ってきます。

もし後者ならば、公共交通機関が動いていない時間帯にオンデマンドで利用できるモビリティのサービスは、受けられる恩恵が非常に大きいと言えるでしょう。ですから、国の政策で全都市をカバーするのではなく、時間や場所、環境を考慮して、都市ごとにダイナミック、かつ繊細な政策が必要なのです。

── モビリティ・サービスを提供する企業が、データを共有することに同意するかといった問題は、すでに困難が予測されていると思います。データには、企業秘密に関わる部分もありますが、企業がデータを共有するためのトリガーとなるものはなんでしょうか。

データ共有については、2つの問題があります。1つは、一般個人を特定できるようなデータをどう扱うかという問題です。もう一つは、企業が自社データを専有にして共有しないという傾向です。現時点では、特定レベルのデータを分離させることは、個人識別情報(PII)*2漏洩の観点から難しいものになっています。

われわれの調査でも、データを突き詰めて精密度を増していくと、それが誰のデータなのかがわかってしまう。いつどこを移動したのか、誰と一緒だったのかといったことが明らかになることもあります。もう一つの問題は、企業が自社で集めたデータを共有したがらないという問題です。専有データは、企業秘密として明らかにしたくない情報で、企業がそう考えるのも妥当でしょう。これらの問題で求められるのは、データを分離する際に、それが個人情報や企業秘密を露呈させないレベルに留めるということです。

方法はいくつかあると思います。1つは、ユーザーに対してプロセスを透明にすることです。データを共有する場合には、それがわかるようにし、またその対価として得られるものを明らかにします。これまで、この部分での信頼関係は築かれているとはいえませんでした。

例えば、フェイスブックが個人データをどう利用するのかをユーザーは理解していないでしょう。データ共有におけるプロセスの透明性は、今や社会的な要求になっていると思います。そのプラットフォームを利用するユーザーにとって、データがどう使われるのかが明確にわかり、希望によって情報の提供の認否を選択できることが重要です。これは未来のモビリティにおいても、市がモバイル・アプリのデータを共有したい場合に、承認すればこうした利点がある、というやりとりをすることが考えられます。

── 自分のデータが共有されることに無関心というユーザーもいます。

だからこそ、オプトイン、つまり共有を許すことを明確な選択によって行うようにしておくことが重要なのです。もう1つ、われわれが最近よく話題にするものにジオフェンシング*3があります。都市の特定の地域をジオフェンシングによって囲い込み、データ共有不能にするといった方法です。データのジオフェンシングと認可政策によって、将来のデータ共有は円滑に進むでしょう。

これらは、個人データを侵食せず、企業秘密にも抵触しないレベルでのデータ集成を実現することにつながります。かつてわれわれは、天然資源保護協議会(NRDC)と共に、ライドシェア・サービスを行うウーバーとリフトの排気ガス放出量について調査を行ないました。その際には、両社が収集したデータをそのまま用いるのではなく、両社のデータを組み合わせて、セキュリティーを確保するという方法を取りました。

各データに見られる独立した変数と共に、そこにあるいくつもの共変量を高いレベルで分析することで、企業の専有データを守りつつ、傾向を把握することができたのです。

写真:サンフランシスコベイエリアを中心に展開する「Gig Car Share」はトヨタ・プリウス・ハイブリッド車を使用したエリア内乗り捨て可能な新しいカーシェアリングサービス
Gig Car Share

[ 脚注 ]

*2
個人識別情報(PII): その情報に含まれる記述等によって特定の個人を識別できる情報のこと。英語では personally identifiable information (PII)
*3
ジオフェンシング: アプリケーションで地図上に仮想的なフェンスを張り、その内外で端末の処理を変えられるもの。
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