No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

Visiting Laboratories研究室紹介

息子の克樹君と共に
石丸 美穂さん

TM ── 康永研究室で得たものは何でしょうか。

中島 ── 研究デザインの重要性を学びました。研究とは、ただ闇雲にデータを集めて解析すれば何か結果が出るといったものではありません。仮に2つのグループを比較しようとすれば、各グループの条件を平等にする必要があります。そこで求められる、バイアスを取り除くための統計的な手法などを身につけました。さらには論文を英語で執筆し、学術誌に掲載してもらえるだけの力も養ってもらいました。そして何より大きいのは、ここでの2年間で培ったネットワークです。研究室の先輩や同期たちのネットワークは、これからの自分にとって大きな財産になると考えています。

石丸 ── 康永先生には、研究デザインの考え方や研究の実際の進め方、論文の書き方から投稿方法まで、すべてをサポートしていただきました。その上で、中島さん同様に、同じ志を持って研究したいと集まった人たちと知り合えたことが大きいです。みんな様々な分野のスペシャリストが揃っていて、臨床に関する専門的な知見を交換し合えたり、研究デザインを考える際も違った視点からの気づきをもらえたりします。また、東大には統計学教室もあり、専門家からアドバイスを受けられたことも大きな助けとなりました。

TM ── 康永先生ならではの学びは何でしょうか。

中島 ── 最初は授業が多く、統計や疫学、医療経済などを座学でしっかり学び、その後で自分の研究を進めていく。これが康永研究室のスタイルだと思います。康永先生はおそらく、教えることを仕事だと思っておられるので、とても相談しやすい。相談のしやすさは康永先生だけに限らず、実は8割ぐらいの疑問は同級生や先輩に聞いて解決しています。誰に聞いても教えてくれるので、自分も聞かれたら教えるようになり、また教えることによって理解が深まることも学びました。

石丸 ── 私は研究室ができて2年目に入ったので、先輩は1つ上の方たちだけでした。立ち上げ当初だったこともあり、康永先生にはかなりみっちりと、それこそExcelの使い方から教わりました。こんなことに先生の貴重な時間を使ってもらって申し訳ないと思っていたので、しっかり身についたのだと思います。

TM ── 今後についてはどのように考えていますか。

中島 ── この後は臨床に戻りますが、そこで後輩や研究を志す人をサポートしつつ、一緒に研究をしていければいいなと思います。例えば、データはあるけれど解析の仕方がわからない、といったケースでは役に立てるはずです。また、世界には数多くの医学雑誌があり、いろいろな情報が入ってきますが、それらが全て正しいとは限りません。そのため、批判的に物事を吟味する力も伝えていきたいですね。そして、研究者と臨床家のハブのような存在を目指したいと思います。

石丸 ── 博士課程修了後は、研究者になるつもりです。まずは、歯科にはまだ乏しいエビデンスを作っていきながら、臨床の先生方が疑問に思っているテーマについて研究サポートをしたり、データベースから必要なデータを提供したりすることが、自分の役割だと考えています。また、歯学部の後輩たちへの指導も必要でしょうし、歯科全体におけるエビデンスの底上げに貢献していきたいですね。

石丸 美穂さん石丸 美穂さん

Profile

中島 幹男さん

中島 幹男(なかじま みきお)さん

東京大学大学院公共健康医学専攻、杏林大学医学部救急医学、都立広尾病院救命救急センター

1977年生まれ。2002年 近畿大学医学部卒。静岡県で呼吸器内科医をしたのち、杏林大学病院、都立広尾病院で救急医として勤務。2017年より 東京大学医学系研究科公共健康医学専攻に入学し、康永研究室に所属。日本救急医学会専門医、日本内科学会専門医、日本呼吸器学会専門医。著書に「NBC災害に備える!」(羊土社)、「胸部X線カゲヨミ」(羊土社)。

石丸 美穂さん

石丸 美穂(いしまる みほ)さん

1987年生まれ。現在、東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻臨床疫学・経済学医学博士課程3年。

2012年3月北海道大学歯学部卒業。歯科医師免許取得。
2012年4月〜2014年3月まで旭川医科大学歯科口腔外科学講座で研修医として勤務。
2014年4月〜2016年3月東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修士課程を卒業し、
MPH(Master of Public Health)の学位を取得。
現在は博士課程に進学し、医療ビッグデータを扱い歯科臨床疫学研究を行なっている。

Writer

竹林 篤実(たけばやし あつみ)

1960年生まれ。ライター(理系・医系・マーケティング系)。

京都大学文学部哲学科卒業後、広告代理店にてプランナーを務めた後に独立。以降、BtoBに特化したマーケティングプランナー、インタビュワーとしてキャリアを重ねる。2011年、理系ライターズ「チーム・パスカル」結成、代表を務める。BtoB企業オウンドメディアのコンテンツライティングを多く手がける。

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