Visiting Laboratories研究室紹介
ビッグデータを活用し、より確実な医療を追究する。
2019.3.4

医学の世界では、1991年に「Evidence Based Medicine(EBM:根拠に基づく医療)」が提唱された。この事実の意味をまず考えてみたい。つまり、それ以前の医療は、何を根拠に行われていたのかという問題だ。さらに今の医療が根拠に基づくものであるなら、それは確実なのかという疑問も生まれるだろう。これほど科学が進歩した今でも、実は医療は不確実である。臨床疫学の第一人者である康永教授は、医療の不確実性に挑み、少しでも確実な医療を模索し続けている。
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第1部:
東京大学大学院
医学系研究科公共健康医学専攻臨床疫学・経済学教授
康永 秀生
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第2部:
東京大学大学院医学研究科
中島 幹男さん
東京大学大学院医学研究科
石丸 美穂さん
第2部:東京大学大学院医学研究科 中島 幹男さん/東京大学大学院医学研究科 石丸 美穂さん

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TM ── 康永研究室を選んだ理由を教えてください。
中島 ── 救急医として約15年勤め、指導的な立場になっていました。臨床も教育も一通りのことはできるようになりましたが、医療には不確実性が伴います。目の前の患者さんに対して、自分としては精一杯の治療をしてはいるけれども、その治療法や薬に対するエビデンスはと問われれば、明確になっていないことも多い。そこで臨床疫学の第一人者である康永先生の下で、研究方法や統計を学びたいと考えました。
石丸 ── 私は歯科医師で、研修医として2年勤めた後に、こちらに来ました。学部生の頃にEBMの重要性を学びましたが、いざ歯科医師となって治療のエビデンスについて調べても、情報が全然出てこない。歯科では治療に関するガイドラインや指針が医科ほど整えられていないのです。治療の実態は、上級医の先生に聞いて、その先生の経験に基づいた治療法を伝授されるわけです。そこで歯科についてのEBMを学びたいと思い、ここに来てもう5年になります。
TM ── いま、どんな研究に取り組んでいますか。
中島 ── 救急医療や集中医療が必要な、重症患者さんや緊急対応の必要な患者さんたちに関する治療法について、レセプトデータを使って研究しています。例えば、重症のやけど患者さんなどは、1つの病院だけだと年間数人も来ません。その患者さんたちを診ているだけでは、最適な治療法はわからないわけです。ところが全国規模でレセプトデータを集めれば、何百件ものデータがあります。すると、例えばやけどなら、手術をする最適なタイミングなどを分析できるのです。治療を施すタイミングなども、現状では病院ごとに経験則で動いていますが、世界レベルまで広げれば、より高いエビデンスに基づいたやけど治療を行えるようになります。
石丸 ── NDB(ナショナルデータベース)には、歯科のレセプトデータも入っています。しかも、NDBでは患者個別にIDがつけられているので、歯科と医科のデータを連結できるのです。これを元に研究を進めた結果、胃がん、大腸がん、肺がんの患者さんに対して、術前に口腔ケアを行うと、術後肺炎の発症率や死亡率が統計的に有意に減少することがわかり論文を発表しました。こうした研究は歯科だけでは不可能です。歯科と医科の連携が進めば、今後も新しい知見が得られると思います。