No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

大貫 美鈴氏

宇宙ビッグデータとはなにか?

── その衛星を使った製品やサービスのひとつとして、近年「宇宙ビッグデータ」が注目されています。まず、この宇宙ビッグデータとはどういうものなのでしょうか。

宇宙から得られるデータというのは、それだけでほかにはない大きな価値を持っています。

また、現在では宇宙からのデータを、ビッグデータをはじめとしたその他のデータと組み合わせて分析することで、「アクショナブル・データ(行動につながる実用的なデータ)」や「アクショナブル・インテリジェンス(判断基準として使える知識と知見)」としてビッグデータ・エコノミー(ビッグデータを使った経済)に活かせるようになりました。

このように、宇宙から来たデータとその他データとの組み合わせは、近年取組みが加速しているデジタル・トランスフォーメーション(進化し続けるITがあらゆる人々の生活を豊かにするという概念)に貢献し、あらゆる産業に新たな価値をもたらします。

── 「宇宙データ」には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

近年成長がめざましく、データの内容としてもビジネスとしても大きく注目されている分野に「地球観測」や「リモートセンシング」というものがあります。

今までも、地球観測衛星は地球を撮影し、そのデータを単体で使ったり他のデータと組み合わせて使われたりしてきました。しかし、そんな宇宙観測衛星が再び注目されている背景には、使われ方の“内容”が変わってきたことがあります。

かつて地球観測衛星と言えば、質量が数トンもある大きなもので、できるだけ高解像度で地表を撮影することを目的としながら進歩してきました。撮影できる頻度も数週間に1回程度で、画像として販売・利用するというのが一般的だったのです。

しかし最近では、技術革新によって小型の衛星が続々と登場。さらにその小型衛星を数十機から数百機用い、地球を覆うように配備して観測するという手法が出てきました。これを「コンステレーション」と呼びます。コンステレーションは時間分解能、つまり撮影頻度が大きく向上するので、刻一刻と変化する状況をつぶさに観察することが可能になります。毎日、地球を丸ごと、隅々に至るまで動画のように撮影し続けることができるようになったんですね。また、小型衛星はコストも安いので、民間や新興国などの新規プレイヤーが参入しやすいという特徴があります。

さらに、最近の技術革新により小型の合成開口レーダー(SAR)衛星も登場してきました。SARとはレーダーで地表を撮影する技術のことで、夜間や雲がある状態でも地表を撮影できます。従来は大型の地球観測衛星にしか積めなかった装置ですが、最近では小型衛星にも積めるようになってきています。これをコンステレーションの状態にさせたり、通常のカメラを積んだ光学衛星と連携させたりするのです。もともと軍事技術だったSARは、2016年まで民間利用が制限されていました。それが今では商業利用を目的としたSAR衛星を打ち上げるまでになりました。また、小型のRF(ラジオ波)ジオロケーション(位置情報)衛星も実用の段階になっています。

── そうした衛星から得た情報が、ビッグデータのひとつとして大きな価値を持ちつつあるというわけですね。

そうです。今お話ししたのは地球観測データの例ですが、このほかにも気象観測衛星のデータや測位衛星、また国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたセンサーなどからの宇宙データもあります。それらを、地上のさまざまなセンサーなどのデータと融合させることで、新しい価値を創出できるようになりました。

また、地上におけるアンテナの技術革新もあり、AIやIoT、クラウドといった宇宙以外の技術革新も活用して、効率的なデータ収集や分析ができるようにもなっています。この結果、アクショナブル・データを生み出すことも今では可能です。

これまではお客さまに衛星の画像データを提供するだけでした。しかし、今はさまざまな技術をいくつも組み合わせることで、「ソリューション(課題解決のための手段)」としてデータを提供する情報がサービスされるビジネスモデルに変わってきています。そのソリューションのもととなるデータのひとつとして、小型衛星などによる宇宙データが大きく役立つようになったという点が、ここ最近の大きな変化です。

宇宙ビッグデータの可能性

── 宇宙ビッグデータ、そしてそれを使ったソリューションは、どのような分野で活かされているのでしょうか。

まず、農林水産業のような一次産業の分野で活用されます。こうした分野は従来から衛星データが使われていましたが、それがより活発になろうとしています。具体的には、農作物の「糖度がどれくらいか」「いつ収穫するのがいいか」といったことを判断するのに活用されています。生育状況は需要と供給やコモディティの価格に大きく関わるため、精度の高いデータが求められます。さらには農業金融サービスなど保険にも衛星データが活用されています。

また、エネルギー産業の分野でも衛星データは活用されています。たとえば石油備蓄タンクの蓋の変動から、備蓄量を読み取るというのが好例ですね。AI技術と組み合わせてタンクを見つけ、タンクの蓋の影を読み取ることができます。価格決定や商取引にデータが利用されているのです。

そしてそこから国力や国の政策が見て取れたり、外交に活用したり、先物取引やマネタイズしたりといった活用のされ方をします。衛星データが、ただ農作物や石油タンクの変化や量を読み取るだけでなく、あらゆる分野の市場に影響していくわけです。

さらに、宇宙データは将来の予測にも使えます。たとえば、「ある作物が今年はどのくらい収穫できるのか」が事前にわかります。それがわかれば、その作物の価格を高い精度で予測することができます。人手や農作業機械をどれくらい手配すればいいか、市場(いちば)の交通量がどう変化するか、といったことも予測でき、輸送トラックや交通整理員も計画的に手配できます。

加えて、調味料メーカーなどでは、その作物が実際に収穫されてスーパーなどに出回る数か月前から、その作物に合った調味料のCMを打つこともできるようになります。マネタイズのチャンスというのは、このようにいろいろなところから起こるわけです。

もちろん、それを予測するためにいろいろなセンサーが活用され、それと衛星データが組み合わされて使われますが、「宇宙からしか取れないデータ」というものが確実にあり、それが非常に重要視されているのです。

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