No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

大貫 美鈴氏

── 今後、宇宙ビッグデータはどのような分野へ広がっていくのでしょうか。

健康・医療産業も有望だと思います。「人生100年時代」と言われるようになり、これから健康・医療産業、さらに介護分野におけるデータ活用は成長するでしょう。そこに宇宙データを役立てられると思います。

それからスポーツ産業。スポーツ選手はコンマ何秒の世界で戦っていますから、トレーニングや実際の競技に影響を及ぼす気温や湿度などの気象データがとても重要です。また衛星データで得られる位置データは地上で得られるデータとの解析で戦術やパフォーマンスだけでなく、けが予防にも活かす研究が進められています。

建設業界では、従来から使っていた気象データに加え、そのほかのあらゆるデータを組み合わせて工事計画を立てています。また、建設計画自体に衛星データを利用して地域開発に役立てる、地域の公共投資や供給需要データは民間投資を予測するのに役立ちます。また、ゴルフ場ではたびたび雷による事故が起こるため、「宇宙から得た雷のデータを使いたい」という声もあります。

気象やGNSSのデータはこれまでも使われていましたが、これからは先ほどお話したような地球観測データも大きく使われていくことでしょう。たとえば、世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」の例があります。衛星から駐車場に停まっている車の台数を見て売り上げを予測したり、季節や天候でどう変わるかを予測したりして事業計画に活かす、ということが小売業界でもすでに行われているのです。

これまで宇宙と関わりのなかった「非宇宙産業」にもデータ利用が広がっていくという点に、大きな可能性があると思います。

── 一方で、宇宙から何でも見えるということは、プライバシーの問題も出てくると思います。このあたりはどのように議論され、法整備が進められているのでしょうか。

自分に関するデータが「どこでどう使われているかわからない」という状況は怖いですよね。そうしたプライバシーや、データ保護、知的財産権などのデータポリシーの問題というのは、日本を含め世界中で認識されています。もちろん議論もされていますが、まだ不十分というのが現状のようです。

たとえば、「ある一定の細かさ以上の衛星画像を売り買いしてはいけない」といったような決まりはあります。日本でも「衛星リモートセンシング法」ができ、衛星データを利活用する利用産業の発展のために、高解像度の衛星データが悪用されないようデータの扱いに制限が設けられるようになりました。

しかし、宇宙における「生のデータ」をやり取りする際の決まりはあっても、そうした衛星データをほかのデータと掛け合わせてビッグデータとして扱い、ソリューションとして提供する――。こうしたプロセスにおけるデータポリシーについては、まだ確立されてなく課題になっているのが現状です。

今後、衛星データを解析して利用するビジネスが進展するためにも、段階的に決まりをつくっていくということで、プライバシーをはじめとした問題は解決されていくのではないかと思います。

2019年、注目の宇宙ビジネス

── 宇宙ビッグデータ以外の宇宙ビジネスについても伺えればと思います。今年、宇宙ビジネスの中でとくに注目されているイベントはありますか。

まず、有人ロケットや有人宇宙船が次々にデビューすることを、本当に楽しみにしています。

スペースX社(SpaceX)は「ドラゴン2」、ボーイング社(The Boeing Company)は「スターライナー」で宇宙飛行士をISSに運ぶ予定ですし、ヴァージン・ギャラクティック社(Virgin Galactic)の「スペースシップツー」、ブルー・オリジン社(Blue Origin)の「ニュー・シェパード」はサブオービタル(弾道飛行)での宇宙旅行ビジネスの開始に向けて、開発や試験を続けています。

またスペースX社は、株式会社ZOZOの前澤社長が乗ることでも知られる巨大宇宙船「スターシップ」の試験機スターホッパーを建造していて、ホップ(飛び跳ねるように)飛行して着陸技術を実証する試験が始まったところです。プロトタイプですが、あれほど巨大な宇宙船「スターシップ」開発が本格化します。

先にお話しした小型衛星の分野で言えば、小型衛星を打ち上げる小型ロケットの開発も盛んで、昨年一足先にマーケットインしたロケットラボ社(Rocket Lab)に続いて、ヴァージンオービット社(Virgin Orbit)などが商業軌道打ち上げを始めるでしょう。小型衛星では、ロッキード・マーティン社(Lockheed Martin)が先日発表した超小型衛星「スマートサット」に注目しています。これまで衛星と言うと、つくって打ち上げたら最後、どういうミッションをやるかは変えられず、つくったときのままの機能しか持てませんでした。しかしスマートサットは、再プログラム可能な衛星で、地上からソフトウェアを書き換えることで衛星のミッションを変えてしまうこともできるのです。まさに、画期的なアイデアと言えますね。

このように、近年では衛星やロケットをハードウェアではなく、ソフトウェアのように開発、運用するという考え方が出てきています。前述のスペースX社のロケットも、ブルー・オリジン社のロケットも、故障や不具合が起きたら通信でプログラムを書き換えて対処することで迅速回復、機能向上が可能です。

── 技術の進歩とともに、衛星が「できること」も変わってきたということですね。ほかに注目のイベントがあったら教えてください。

もうひとつ注目しているのは、地球から月周辺(Cis-Lunar)を開発するというものです。先日、アメリカのNASAや日本のJAXA、欧州宇宙機関(ESA)などが、国際宇宙ステーション(ISS)に続く国際共同で取り組む宇宙計画として、月を回る軌道に宇宙ステーションを打ち上げる「月軌道プラットフォーム・ゲートウェイ」という計画を発表しました。この計画をはじめとした、月周辺の商業化、経済開発が始まろうとしています。

たとえばISSは各国の宇宙機関がつくりましたが、ゲートウェイは最初から官民連携で「民間も一緒になってつくろう」という方針が示されています。また、昨年11月には、NASAが「CLPS」という計画も発表しました。これは、月への物資輸送を民間企業に任せることを目的としたもので、まさに「月周辺の商業化」と言えます。すでにその物資輸送を担う9社が選ばれ、日本のispace社が参加しているチームも選ばれました。

また、月面への宇宙飛行士の輸送も民間に任せるサービスではすでに、ロッキード・マーティン社が商業有人月着陸機を提案しています。スペースX社を率いるイーロン・マスクさんや、ブルー・オリジン社を率いるジェフ・ベゾスさんなどは、こうした動きを「月探査」ではなく「月の経済開発」と呼んでいます。宇宙計画を経済活動として見ていることが伺えますね。

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