No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

大貫 美鈴氏

日本の宇宙ビジネスの特徴と強み

── 日本の宇宙ビジネスについては、どのような期待を寄せていますか。

日本では今、30社ほどの宇宙ベンチャーがあります。世界には1,000社ほどの宇宙事業に取り組む企業があると言われていて、それと比べると非常に少ないのは事実です。

ですが、数は少ないものの、小型ロケット開発から地球観測、地上インフラ、月開発、さらにはスペース・デブリ(宇宙ゴミ)の除去やエンターテインメントといった分野に至るまで、実にさまざまな分野に広がっています。

さらに、大きな資金調達に成功していたり、グローバルに活躍していたりする、存在感の強い企業が多いという点も特徴です。たとえば、地球観測ではアクセルスペース社、前述の月開発ではispace社、スペース・デブリ除去ではアストロスケール社、そしてエンタメでは人工流れ星をつくろうとしているALE社などがあります。

── 先ほどお話にあった「非宇宙産業」における、宇宙データの利活用や宇宙ビジネスへの参入という点で、日本はいかがでしょうか。

非宇宙企業による宇宙産業への参入が多い点も、日本の特徴です。

先日、自動車メーカーのトヨタが月面車をつくると発表したことは、日本のみならず世界でも非常に大きな話題となりました。また、日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」に搭載された小型回収カプセルに、タイガー魔法瓶が開発した、水筒などでおなじみの魔法瓶の技術が活かされたことも話題になりましたよね。

先ほどもご紹介した健康・医療産業では、すでに化粧品メーカーの資生堂やポーラ化粧品が宇宙分野に参入し、宇宙ステーションに長期滞在する際に「宇宙飛行士や宇宙旅行者の健康をどうやって維持するか」という研究が進んでいます。たとえば人間のストレスというのはなかなかわかりづらいもので、とくに地球から宇宙ステーションに滞在している人のストレスを診断するのは困難です。そこで、皮膚の状態やまばたきの様子などからストレスを推し量ることができないか、という研究が行われています。

大手住宅メーカーのミサワホームも、南極に基地を建設した経験や実績から、宇宙ステーションのような閉鎖環境をどうつくるか、どうすれば快適に過ごせるかという知見を持っています。

おもちゃメーカーのタカラ・トミーは月や惑星探査に使えるロボットの研究を行っています。このほかにもキヤノンやソニー、JALやANAなどが、宇宙産業に事業を拡大していることが話題になっていますが、実にさまざまな企業の参入が進んでいます。

政府は2017年に宇宙産業ビジョン2030を策定し、宇宙産業市場規模を1.2兆円から2030年までに2.5兆円にする目標を示しました。衛星データ利活用においては、衛星データのオープン・フリー化、データ利用環境整備事業を推進してきました。今年2月には、クラウド上で衛星データの分析ができる衛星画像データプラットフォーム「テルース」の運用が始まっています。

データ駆動型社会に向けて、日本の取るべき道とは?

── 最近、日本では「データ駆動型社会」という言葉が盛んに叫ばれています。データ駆動型社会に向け、とくに宇宙に関連して「日本の取るべき道」とは何でしょうか。

日本においては、非宇宙企業が多く、そのどれもが大きな技術や価値を持っています。そうした企業が宇宙産業に参入したり、宇宙ビッグデータを活用したりすることによって宇宙産業の裾野が広がり、大きな変革がもたらされていくことでしょう。

また、日本には終身雇用制度があります。「人材の流動性がない」などと見られる面もありますが、見方を変えれば、ひとつの企業に根付いて落ち着いて研究できるという側面もあるんです。そして今、そうした制度の下でこれまで培われた人材力が、宇宙ベンチャーの中で大きく役立っていると思います。データ駆動型社会の中でも、その強みは発揮されるでしょう。

政府による衛星データ利用の環境も整備されつつある中、革新的なアルゴリズムで衛星データが生み出す新たな価値の創出を期待しています。

── ありがとうございました。

大貫 美鈴氏

Profile

大貫 美鈴(おおぬき みすず)

スペースアクセス株式会社 代表取締役、宇宙ビジネスコンサルタント

日本女子大学卒業、東京都出身。清水建設宇宙開発室に勤務後、ボストン滞在中に米国各地の宇宙ベンチャー企業の躍動感に衝撃を受ける。JAXA(宇宙航空開発研究機構)での勤務を経て独立。現在は宇宙ビジネスコンサルタントとして、事業開発、市場開拓、調査、アウトリーチなどで世界中を飛び回っている。

米国の宇宙企業100社以上が所属するスペースフロンティアファンデーションに所属し、革新的商業宇宙開発を推進するニュースペースの活動に取り組む。

また、宇宙起業家養成講座の講師や、宇宙での衣食住遊、宇宙ファッション、宇宙ウェディングなどを通して宇宙を身近なものとして広めるためのプロジェクトを推進。清水建設の宇宙ホテル構想提案以降、宇宙旅行関連の取り組みはライフワークになっている。

著書に「宇宙ビジネスの衝撃」(ダイヤモンド社・2018年)、「宇宙旅行入門」(東京大学出版会・2018年・共著)などがある。

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

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