No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

楠木 建氏

── ということは、AIはあくまでもツールと割り切ったうえで、いかにうまく使いこなすかが重要だというわけですね。

AIを効果的に活用できる状況が存在することも、間違いのない事実です。たとえばユニクロが中国市場に展開するときに、中国の人の購買データを大量に集めて解析すれば重要な示唆が得られる。

都市部と地方では品揃えやサイズ展開を変えるべきだとか、店頭在庫をどれぐらい持てばいいかなどのアドバイスをしてくれるでしょう。これは人間にもできないことはない作業ですが、データ分析ならAIのほうが圧倒的に速い。しかも高速で繰り返しの作業をこなしてくれるのが、AIのよいところです。しかもAIは飽きたり疲れたりしません。ようするに、AIは「ふりかけ」だと考えればよいのです。

── 「ふりかけ」とはどういう意味でしょうか?

美味しいご飯がなければ、ふりかけに存在価値はないでしょう。ふりかけだけを食べる人なんていませんよね。ごはんに相当するのが、首尾一貫した戦略ストーリーです。好き嫌いに基づいたうえで、経営者が論理的に組み立てた戦略ストーリーがあれば、それを補強し、成果に結びつけるうえでAIは役に立つ。思考の順番が大切です。美味しいご飯があってはじめて、「ふりかけ」が意味を持つ。ここを間違えないようにすべきです。

── AIに似た流行り言葉として「Industry 4.0」などもありますが、これはどのように捉えればよいでしょうか?

私見では、Industry 4.0は、わりと眉唾ものだと思います。今が4.0だと言うのなら、Industry 1.0やIndustry 2.0は何だったのか。あるいは今後、Industry 18.0とか20.0などが出てくるのでしょうか。そうした根本的な定義を深く考えることなく、安易にIndustry 4.0などという流行り言葉を使う時点で、その人の「I(知能)」に問題があるのではないですか。

ものごとを深く考えていないにもかかわらず、何となくわかったつもりになる。こうした流行り言葉を使う際に、気をつけなければならないことです。そもそもIndustry 4.0はドイツ発の政策メッセージに過ぎません。行政が発するメッセージという意味では、「クールジャパン」や「おもてなし」と同じです。

同じような流行り言葉として「IoT」もありますが、言葉の使い手が「モノとインターネットがつながったら何が起こるのか」をきちんと考えているようには思えません。耳触りが良いワンフレーズの言葉で、何かを理解した気になるのは戒めるべきだと思います。

データ駆動社会に日本の取るべき道は

── AIをはじめとして、おそらくはこれからもどんどん出てくる新しい技術を、日本はどのように活用していけばよいのでしょうか?

本質的な「ご飯」ではなく、「ふりかけ」が充実する社会には注意が必要です。データ駆動型社会とは、「ふりかけ」が充実する社会のことでしょう。ふりかけそれ自体は社会の豊かさを約束しません。

そもそもデータに駆動されるとは、どういうことなのかを考えるべきです。人がデータに駆動されて、それでよいのでしょうか。そこに自分の「I(知能)」はあるのでしょうか。経営者として考えるべきは、自社の戦略を明確に持つことです。どうすれば長期的に儲けることができるのかを、突き詰めて考える。そのためには、どのような戦略を取ればよいのかを考える。

要は、人には真似のできない、どれだけ美味しい「ご飯」を炊けるのか。これに尽きるのです。

一橋ビジネススクール 教授

楠木 建氏

Profile

楠木 建(くすのき けん)

一橋ビジネススクール 教授

専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。大学院での講義科目は Strategy。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師(1992)、同大学同学部助教授(1996)、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授(2000)を経て、2010 年から現職。  最新刊『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)を始めとして『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、Dynamics of Knowledge, Corporate Systems and Innovation (2010, Springer, 共著)、Management of Technology and Innovation in Japan (2006、 Springer、共著)、Hitotsubashi on Knowledge Management (2004, Wiley、共著)、『ビジネス・アーキテクチャ』(2001、有斐閣、共著)、『知識とイノベーション』(2001、東洋経済新報社、共著)、Managing Industrial Knowledge (2001、Sage、共著)、Japanese Management in the Low Growth Era: Between External Shocks and Internal Evolution(1999、Spinger、共著)、Technology and Innovation in Japan: Policy and Management for the Twenty-First Century (1998 、 Routledge、共著)、Innovation in Japan (1997、Oxford University Press、共著)など著書多数。

趣味は音楽(聴く、演奏する、踊る)。1964 年東京都目黒区生まれ。

Writer

竹林 篤実(たけばやし あつみ)

1960年生まれ。ライター(理系・医系・マーケティング系)。
京都大学文学部哲学科卒業後、広告代理店にてプランナーを務めた後に独立。以降、BtoBに特化したマーケティングプランナー、インタビュワーとしてキャリアを重ねる。2011年、理系ライターズ「チーム・パスカル」結成、代表を務める。BtoB企業オウンドメディアのコンテンツライティングを多く手がける。

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