No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── ビロングでは患者が医療カルテを上げることが可能とのことですが、どの国でも患者個人がカルテを手にできるのでしょうか?

すべての国がどうかはわかりませんが、イスラエルやアメリカ、ヨーロッパ諸国では、自分のカルテを個人で入手できるようになっています。ただ、ビロングでは多くの患者ユーザーがカルテ自体ではなく、その内容をアップしています。たとえば質問内容に、「どの遺伝子変異ですか?」というものがあり、患者がそれに回答するというような形です。

── 自分に合った臨床試験を探す過程は、どのように進むのでしょうか。

ビロングには、「臨床試験を探す」というコーナーがあります。検索を始めるに際して、患者は自分のデータを入力します。テキストでも写真でも構いません。また、それらを匿名化するツールもあります。そうして入力されたデータをビロング側で構造化します。

ビロングはアメリカの国立がん研究所との提携の下、全臨床試験のリストにアクセスできるので、その際にテキストで書かれた内容を我々のテクノロジーを用いて構造化されたデータに変えます。自然言語処理や機械学習の威力が発揮されるのはこのときで、それによって臨床試験の組み入れ基準、除外基準の記述をコンピュータが理解できる構造化されたデータに替えるのです。そして、このデータと患者のデータを比較して数件の臨床試験にまで狭めたものを最後に人間が検討する。ですから、25万件の臨床試験リストに目を通すようなことが不要になった。ビロングでは過去1年半で、すでに世界の5000人以上の患者ユーザーに臨床試験のマッチングを行いました。

[写真3]治験のマッチングサービス
提供:Belong.life
治験のマッチングサービス

── 今までは、患者自身が自分に合った臨床試験を見つける方法は実質的にはなかったわけですよね?

その通りです。国立がん研究所のようなデータベースが理解できるのは医師だけです。私自身、自分は教育も受けて頭もそれなりだと思っていますが、それでも母に合った臨床試験が見つけられなかった。平均的な患者ならなおさらです。しかも医師は特定の病院で行われる臨床試験しか知らない場合も多く、ある臨床試験が行われたのが競合病院なら、同じことをするのは避けるかもしれない。また、海外で行われている臨床試験があったとしても、そこまで手が回らないでしょう。こうした問題が、機械学習とAIで劇的に解決されるのです。

── 患者ユーザーにとってビロングは、ほかの患者との交流もでき、治療のための有用な情報も得られる場所ということですね。

我々は、患者ユーザーのエンゲージメントを得る核心的な方法を見出したと考えています。患者たちは、一日中がんのことを話していたくはないでしょう。しかし、ビロングがユーザーに与える価値が、彼らの関心を誘う。パーソナライゼーションも重要な要素で、正しいタイミングで正しい情報に出会えるようにしています。それも、膨大なデータを与えて混乱させるような方法ではありません。

さらに、がんではステージ1の患者は「いつ仕事に戻れるだろう」と考えるでしょうが、ステージ4の患者は「息子の結婚式に参加できるだろうか」と思う。ですから、同じ種類のがんだからといって、ステージの異なった患者を一緒くたにするようなことはしないのです。

── コミュニティのつくり方にも工夫が必要ですね。

ビロングでは、「マイ・フィード」というエリアで患者ユーザーのデータを集めますが、そこで似たプロファイル、つまり同じがんで同じステージ、あるいは同じ治療を受けているほかのユーザーが見られるようにしています。もちろん、それ以外の患者ユーザーに個人的にメッセージを送ったり、自分なりのコミュニティをつくったり、全ユーザーがいるエリアにアクセスしたり――といったことも可能です。

── 患者ユーザーに臨床試験の機会を知らせたり、ほかのユーザーや専門家に話す機会を与えたりするのがビロングの役割だと理解しましたが、どんな薬品がどんな患者に効果が出た、といった医療情報も扱うのでしょうか。

我々は、医療アドバイスを与えることは決してありません。その点は、非常に明確にしています。専門家が質問に答える際も、「これがいい」というアドバイスを与えるのではなく、「一般的にはこういう方法だ」とか「こういう選択肢がある」といった表現を用います。患者ユーザーの間ではより具体的な体験が共有されていますが、ビロング自体はそこには介入しません。

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