No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

菊池 紳氏

豊作のたびに赤字になる、農業の過酷な現実

── 菊池さんはどうしてプラネット・テーブルを起業されたのでしょうか?

自分自身が生産者になる、という経験を通して起業しています。

私はもともと金融業界で仕事をしていました。投資銀行で、企業のM&Aや上場の手伝いをしていました。そんな私が「生産者」という立場になったのは20代後半の頃です。農家を営んでいた山形の実家で、祖母から「実家を継いで欲しい」という知らせを受けたのがはじまりでした。もともと農業に興味があったことから、山形に通いながら実際に農作業をやってみました。

収穫の喜びは言葉にならないほどですし、何よりも生き物を相手にする仕事が楽しかった。「食べものをつくる仕事って、こんなに素晴らしいんだ」と何度も思いました。

しかしそこで私は生産者として、大きな問題にも直面しました。農家というのは、豊作になるほど貧乏になることがあるのです。

── 普通は「豊作=収入が増える」というイメージですが、一体どういうことなのでしょうか?

生産者がみな、出荷すれば必ず買い取ってもらえる、いわばコモディティな定番野菜をつくることを強いられているからです。

たとえば、気温が高くなり、露地栽培の小松菜の生育が良く、豊作になると、とれた作物はみな市場に流通します。市場への流通量が増えると、需要は変わらないのに供給が過多な状態が続く。こうなると単価の暴落が起きるわけです。割を食うのはもちろん、生産者です。丹精込めて育てた作物でも、経営的には赤字で終わります。

「それなら、ルッコラやビーツといった、定番とは違うが付加価値の高い野菜をつくってはどうか?」という声もよく聞かれます。しかし生産者は、「定番野菜をつくっておいたほうが安全だ」と考えます。定番野菜は収穫して出荷すれば必ず買い取ってもらえることがわかっているのに対し、定番ではない野菜はニーズを知るためのデータがないからです。

この選択は経営の持続可能性の観点からはまったく安全ではありません。この非常に理不尽な状況を目の当たりにした私は、データを生産者に伝えることが重要であることを知ったのです。需要のある食材のデータを生産者に伝え、「適地適作」をする。そして売れにくいものや暴落しやすいもの、飽きられている野菜から生産を切り替えるためのデータを彼らに渡したい――。そう思って考案したのが、SENDの原型となるビジネスモデルでした。

FarmPay概念図
現在は生産者のお金のサイクルをケアするための制度『FarmPay』も展開。出荷作物の対価を受け取るまでには、作付時の資材購入、収穫時の人件費支払いなど、支出が先行するため資金繰りは生産者共通の悩み。できるだけ早く支払いが行われる方が地域の経済としては良好でもあることから生まれた、生産者申請型の先払い制度。ゆくゆくは前払いも視野に入れ、展開している。
FarmPay概念図
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