No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

菊池 紳氏

すべての人が食に参加する未来をつくる

── 生産者のそうした過酷な状況を招いてしまうのは、私たち消費者にも責任がありますね。

食べ物をつくる人が持続可能ではない社会というのは、実はとても変な社会なのです。

この地球では、すべての動物が「食べる」ことを起点に行動と繁殖する環境を決めています。もちろん人間も例外ではなく、歴史学も文化人類学も、中心にあるのは「食」です。食と人間の関係を調べれば、その地域の気候、環境、文化、交易などの経済すらも見えてきます。

しかし現代社会はどうしたわけか、食と人間の関係がどんどん離れている。それによって、生産者の境遇をはじめ、さまざまな不均衡が生まれているわけです。私はプラネット・テーブルを通し、すべての人が食に参加できる社会をつくっていきたいと思っています。それがきっと、この社会に均衡をもたらすものだと考えているからです。

食をつくることに関われば、生産者の状況が分かる。料理をつくれば、食材を知る機会が増える。多くの人が食に少しでも関わりを持つこと、食べ物を「買うもの」ではなく「つくるもの」と捉えていくことで、この社会における生産者の状況は確実に変わります。

また、その変化を起こす一環としてプラネット・テーブルでは現在、就農支援も行っています。現在、日本における就農人口の高齢化と減少は死活問題です。私たちはここにもデータを活用したいと考えています。

まず、作物の需要予測が立っていれば、農業を「儲かる仕事」にすることができます。さらに私たちの生産者5,500軒のネットワークによって、人手が足りない時期・地域も把握できる。初期投資のコストさえうまく支援できれば、これまで就農できなかった人にも道を拓くことができる。

さらには、就農を新しい働き方として提案できるようにもなると考えています。たとえばトマトは、冬は暖かい南の耕作地で、夏は涼しい高原の耕作地で栽培するのが適しています。これをライフスタイルと捉えれば、冬は暖かい熊本で、夏は涼しい高山で仕事ができるということになります。そのうえ兼業も可能となれば、まったく新しいワークスタイルが生み出せますよね。

── 現在、高効率な「データ駆動型社会」への進歩が議論されています。菊池さんはこれから社会のデータ化は進むと考えますか? そして自動化によって仕事が奪われるといった議論もある未来において、人間は何をなすべきだと考えていますか?

この社会はより一層、データ駆動型社会への道を歩むと思います。そしてセンサーなどから機械的に取得できるデータが増加する一方で、それ以外の「データ化されないもの」に人間の仕事が移行してゆくと私は考えています。

たとえば農業では、耕作地の日照、日射、温度、湿度、EC、PHなど、センサーで取得できるデータには技術的な限界があり、それらはすぐに普及・標準化します。そうした機械的に取得できるデータの中でする仕事だけでは、コモディティ化は免れない。よって、機械的データの外側に、「人間にしかできない仕事」をつくり、付加価値を上げていくビジネスが求められていくと感じます。

極論を言えば、「人間にしか得られないデータをつくることが、未来の人間の仕事になる」のだと思いますね。

プラネット・テーブル株式会社プラネット・テーブル株式会社プラネット・テーブル株式会社

菊池 紳氏

Profile

菊池 紳(きくち しん)

プラネット・テーブル株式会社 Founder

起業家、ビジネス・デザイナー。1979年東京生まれ。大学卒業後、金融機関や投資ファンド等を経て、2013年に官民ファンドの創立に参画し、農畜水産業や食分野の支援に従事。2014年にプラネット・テーブル㈱を設立。「SEND(2017年グッド・デザイン金賞 受賞)」、「Farmpay」など、"食べる未来"をテーマに、デザイン/テクノロジー/サイエンスを活用した新しい事業を生み出している。

Writer

森 旭彦(もり あきひこ)

2007年からフリーランスのライターとして活動。サイエンス、テクノロジー、アートに関する記事をWIRED日本版、Forbes Japan、MIT Technology Reviewほか、さまざまなメディアに寄稿している。最先端のサイエンスやテクノロジーと現代のコンテクストを、インタビューを通し伝える記事を多数執筆。近年はメディア・アートへの関心から、オーストリア・リンツにあるアートセンター「アルスエレクトロニカ」に関する記事を執筆している。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。

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