No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Expert Interviewエキスパートインタビュー

ドミニク・グルスケ氏

── ここまで伺ったように、「エリーザ」プロジェクトは官民一体の取り組みとなっています。他にはどのような団体が協力しているのでしょうか?

まず「ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省*4」です。環境省はヘッセン州のテスト区間の建設にこれまで1460万ユーロ(約18億円)を投じており、2022年末までのテスト期間にさらに1530万ユーロ(約19 億円)の予算を確保しています。シーメンス社は、テスト区間を建設しました。テスト走行には同社の専門家が常に居合わせ、技術面でうまくいっているかをチェックし、その情報をわれわれと共有しています。また、ダルムシュタット工科大学の交通計画・交通技術研究室*5は、プロジェクトの開始当初から学術的な側面でプロジェクトをサポートしてくれています。

最後に紹介するパートナーは、エネルギー供給会社の「エンテガ(ENTEGA AG)社*6」です。彼らはエネルギー供給の観点からこのプロジェクトを評価します。電気がトラックに十分に供給されているか、新しい発電所が別に必要か、といったことを検証し、そして将来的にeハイウェイを利用した運送会社がどのように電気代を支払うべきか、そのシステムを構築しようとしています。例えば、フラットレート(定額制)にするか、個々のトラックが使った電気の量に応じて支払うべきか、といったことです。

── これだけ大きなプロジェクトになると、他のパートナーと取りまとめるのも大変ではないかと想像しますが、共同作業の様子はいかがでしょうか?

おおむねうまくいっていると思いますよ。定期的にインターネットや電話会議を通して情報交換をしており、このヘッセン・モバイルのオフィスでパートナーと会うこともあります。ヘッセン州の交通省であるヘッセン・モバイルはこのプロジェクトの中心に立ち、他のパートナー団体との間をつなぐ役割を果たしています。高速道路から一般道までの建設・運営・計画に携わる一方で、研究チームがあり、私はそこの一員です。「エリーザ」は、電気自動車をテーマにした我々研究チームのプロジェクトです。

── eハイウェイの実用に向けた今後の見通しをお聞かせください。

これからシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州で10km、バーデン=ヴュルテンベルク州でも同様の距離の試験区間が造られます。その目的は、「求められる技術を試験すること」と「将来どのようにeハイウェイを建設するかのプランを作ること」。「エリーザ」では2022年までをテスト期間と位置づけ、5台のトラックを4年かけて試験します。それに関連して、具体的にアウトバーンのどの区間を電化するのが有益なのかについて考えを深めます。市民に受け入れられるかどうか、事前に説明すべき問題点は何なのか――。そういったことをテスト期間で試すつもりです。

── その先にはどういう未来が待っているのでしょう。

スウェーデンと一緒に仕事をしたように、これはドイツという国を超えたプロジェクトです。ドイツの車が他の国でも走れるように技術を統一し、ゆくゆくはeハイウェイをヨーロッパ中で共有したいですね。ちょうどこれからイタリアで新しい区間が新設されます。スウェーデンも区間を延ばす予定で、今までは2kmだけでしたが、30kmに延長されます。多くの貨物輸送は国境を越えるので、eハイウェイの仕組みはヨーロッパ共通で使えてこそ意味があります。

2050年までに、貨物輸送は5倍に増えると見込まれています。鉄道輸送網を拡張しないといけないし、道路網のインフラ整備も不可欠。だからこそ、電車輸送の長所とトラック輸送の柔軟性を結びつけた、eハイウェイのような技術が求められているのです。

── eハイウェイの利点はよくわかりましたが、今後解決すべき問題点はあるのでしょうか?

1つは、高さ4mを越えるトラックでの大量輸送をどうするか。ドイツでは許可が必要です。我々の区間をそのような車が走る場合、車線をどう使うか、他の車との距離をどう取るかなど、考えるべき課題がいろいろあります。また、架線の電柱の下には水道管やインターネットも含めた電話線が張り巡らされています。その線の運営会社に連絡して地下のどこに線があるかを確かめ、それを切らないように電柱をどう埋めるかを考えないといけません。それらの線は道路と並行することもあれば交差することもあり、それによって電柱を建てる位置も変わってきます。

実は、eハイウェイには「架線から」ではなく「地面から」電気を取るアイデアもあったのですが、結局架線方式を選びました。アスファルトを除去するよりも架線を取り付けるほうが楽ですし、工事中もアウトバーンの交通の流れを保持しておきたかったからです。

[ 脚注 ]

*4
ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省:ドイツの連邦行政機関の1つで、本部はボンにある。「ドイツ環境省」の略称で呼ばれることも多い。
*5
ダルムシュタット工科大学の交通計画・交通技術研究室:ダルムシュタット工科大学土木・環境工学部の中にある研究室。マンフレート・ボルツェ教授(Prof. Manfred Boltze)が主任を務める。
*6
エンテガ(ENTEGA AG)社:ダルムシュタットに本拠を置くエネルギー供給会社。2015年にHEAG南ヘッセン・エネルギーから現在の社名に改名された。
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