Expert Interviewエキスパートインタビュー
── 今年5月にドイツ最初の試験運用が始まりましたが、メディアの反響はいかがでしたか?
ドイツで最も有名なニュース番組「ターゲスシャウ」で紹介され、一般紙はもちろん、輸送や物流の専門誌でも取り上げられるなど、反響は大きかったです。オープニング式典にはスウェーデンから大臣が来てくださり、ドイツの枠を超えて反響がありました。市民の関心も高く、問い合わせが定期的に届きます。安全面を不安視する声も多いですが、「架線の電圧は670ボルトで、街のトラム(路面電車)と同じ技術を使っています。それらと同様に安全です」と伝えています。eハイウェイには安全システムが完備されていて、万が一、架線に障害や破損が見つかったら自動的にオフになり、感電を防ぎます。
── 大雪が降った場合など、施設に影響はないのでしょうか。
架線は常に一定の温度に保たれているので、凍ることはありません。施設が数週間検査などで閉鎖された時に気温が0℃以下になったら、温めて氷を溶かします。
── eハイウェイのテスト区間の電気は、どのようにして供給されているのですか?
再生可能エネルギーで作られています。太陽や風力など、この地域で作られたエネルギーです。
── 2030年までに42%、そして2050年までに80~95%の温室効果ガスを減らすのがドイツ政府の目標です。この数値はかなり革新的なものなのでしょうか?
EUの基準では「普通の」目標数値だと思います。様々な国がそれぞれの戦略を持っていますが、温室効果ガスを大幅に減らすのはヨーロッパ共通の認識ですから。その中でこの「エリーザ」プロジェクトは重要な役割を担っています。
先にお話ししたように、風力発電の施設や太陽光のエネルギーパークを作るといったエネルギー生産の分野に比べて、交通分野での温室効果ガスの削減には困難が伴っています。CO2を排出するディーゼル車やガソリン車はまだ膨大な数が走っており、電気自動車への移行は極めて緩やかにしか進んでいません。ですからこのプロジェクトは、電気自動車の割合を高めることにも貢献するでしょう。
── 現在のドイツにおける電気自動車の割合はどのぐらいなのでしょうか?
完全な電気自動車は0.07%、ハイブリッド車でも0.4%に過ぎません。一度車を買えば多くの人は長く使うので、電気自動車への移行の進み具合は遅い。もちろん、自動車産業はドイツ経済に大きな貢献をしているわけですが、地球環境の事を考えると、これからは変わっていかなければいけませんね。
Profile
ドミニク・グルスケ(Dominik Gurske)
1988年、フランクフルト生まれ。ヴィースバーデンのラインマイン大学で環境工学の学士を取得後、トリアー大学でエネルギー工学の修士課程を卒業。2017年5月からドイツ・ヘッセン州の交通省「ヘッセン・モバイル」の研究チームに所属。
Writer
中村 真人(なかむら まさと)
フリーライター。1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。音楽、歴史、アートなど多彩な視点からベルリンやドイツの今をレポートしている。著書に『新装改訂版 ベルリンガイドブック 歩いて見つけるベルリンとポツダム 13エリア』(ダイヤモンド・ビッグ社)など。ブログ「ベルリン中央駅」