No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Cross Talkクロストーク

笑いのメカニズム

澤口俊之氏

── 人は何かを見たり聞いたりした結果、脳が反応して笑うのだと思いますが、笑いが起こる際の脳内のメカニズムはどうなっているのでしょうか。

澤口 ── 笑いは細かく分けると10種類に分類される*6ので、笑いごとにメカニズムは違います。実際脳を詳しく見ると、笑いごとにいろいろな部分が活性化しているのがわかります。それこそ作り笑いのときだけ活性化する部分もあるほどです。それよりも注目すべきは、笑うと脳内麻薬ホルモンといわれるエンドルフィン*7が出ていることです。快感を感じさせるホルモンであると同時に痛みを遮る物質です。笑っている人ほど長生きだという研究結果もあります。

竹之内 ── そうおっしゃっている澤口先生をテレビでときに拝見するのですが、先生ご自身はあまり笑われないようですね。

澤口 ── お笑い系の番組に出ていると、周りのみんながよく笑うでしょう。すると、なんでみんなは笑っているんだろうと考えてしまうのですよ。これが研究者の不幸なところで、自分が笑う前に、なぜ人が笑っているのかに注意が向けられてしまう。しかも、笑っている理由がよくわからないことのほうが多い。だからいつも私一人だけ浮いているように見えるのです。

竹之内 ── 僕らは笑いのメカニズムはあまりわかっていません。というか、わからないのが前提となっています。

澤口 ── それでいいと思いますよ。

竹之内 ── メカニズムがわからないのに、なぜ『大喜利AI』をつくることができたのか。要は言葉の確率分布*8に注目したのです。例えばウィキペディアや新聞のニュース記事などのプレーンな文章を分析すると、ユーモアを含んでいない言葉の出現頻度がわかります。これに対して漫才や落語、お笑い芸人のラジオ番組などには笑わせようという意思が込められた文章があります。この2つを比較するとその差分、使われている言葉の確率分布の差分を抽出できる。笑いを含む文章における言葉の確率分布とプレーンな文章における言葉の確率分布には差があり、その差分をAIで取り出しているんです。

澤口 ── それが『大喜利AI』の基本的なメカニズムになるのですね。どうしてそんな発想に至ったのでしょうか。

竹之内 ── ディープ・ラーニングで出来ることの一つとして、差分の検出があります。これは言語に限った話ではなく、画像系のAIがどんどん進化しているじゃないですか。例えば私の写真を撮って、それをモナリザ風に変換するなんて簡単にできてしまう。普通の人間の写真のドットパターンと、モナリザ的な絵のドットパターンには明らかな差があります。だからモナリザ的な絵のパターンのエッセンスを抽出して、私の写真に埋め込んだら、私の顔がモナリザ風のタッチになる。これが今AIの世界ならみんなが普通にやっていることで、それを僕らは言語に応用したわけです。基本的な考え方は機械学習、ディープ・ラーニングの核心ともいえる、特徴量をAIが抽出してくれるからできるんです。

澤口 ── 確かにAIの進歩はすごいですね。実は私も論文の査読などでAIの恩恵をたくさん受けています。いま竹之内さんが話された差分の抽出などはAIが最も得意とするところですから。新しい論文を査読する際に、過去の論文のデータベースとAIを使って比較させると、差分があっという間に一目瞭然になる。病変画像の読影なども世界中の症例を集めてAIに学習させれば、人間よりもよほど正確に判断してくれますよ。

[ 脚注 ]

*6
笑いの分類: ここで述べている10種類の笑いは以下の通り。
  • エチケットの笑い:物事が面白くなくても人々は他の人と仲良くするために笑います。
  • 伝染性の笑い:笑いの連鎖反応。
  • 神経質な笑い:不安は、ストレスを減らし落ち着かせる無意識の試みでしばしば笑いを引き起こすことがあります。
  • 腹の底からの笑い:本当に面白いとき人々はおなかをかかえて笑います。
  • 静かな笑い:腹の底からの笑いと似たような状態ですが笑い声の出ない笑いです。
  • ストレス解消の笑い:多くの形態を含みますが大部分は爆発的に発生します。
  • ハトの笑い声:笑い療法や笑いヨガで行われる口を開かずに笑う方法。ハトが鳴くようなハミング音が笑い声から聞こえます。
  • いびき笑い:鼻から生じる笑い。
  • 缶詰の笑い:テレビのホームコメディの背景でよく聞かれる笑い声。
  • 残酷な笑い:人をだしにしたり、笑いものにすること。
※脳科学的な見地からは未だ実証が不十分とされている。
*7
エンドルフィン: 大脳内部にありモルヒネに似た鎮痛などの作用を示す物質。
*8
確率分布: ある確率変数の実現値がそれぞれの実現確率で生じる状態。例えば、確率変数をサイコロの目の値とすると、実現確率がそれぞれ1/6の確率分布となる。
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