No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Cross Talkクロストーク

コンピュータの進化が広げる可能性

竹之内大輔氏

── 澤口先生の今のお話を聞いていると、コンピュータ処理能力の猛烈な進化が背景になっているようです。『大喜利AI』もコンピュータ進化の恩恵を受けているのでしょうか。

竹之内 ── 僕らが『大喜利AI』で使っているボキャブラリーは、日本語をほぼすべて網羅しているので、数でいえば2000万から3000万ぐらいだと思います。それに加えて僕らの場合は、さっきの「朝ズボ」みたいな造語もつくるので、扱う単語数自体はかなり膨大です。ところが計算自体は実は大したことないんです。この部屋にあるサーバは、秋葉原で売っているゲームPCで、GPU*1というプロセッサーが載っただけのものですが、これでもボキャブラリー3000万語ぐらいの言語モデルを学習するのには、3日もあれば十分です。それで特定の新聞の文体の特長を取り込んだ発話モデルなどを作れますから。

澤口 ── 大手新聞社の中には、あんまりおもしろくないところもありますけれどね。

竹之内 ── ともかく、グラフィックボード*2で計算できるようになって技術的なブレイクスルーが起こったのです。とはいえ澤口先生がおっしゃった脳波のリアルタイム測定となると、また次元の違うコンピュータパワーが必要になると思いますが。僕らは基本的にテキスト情報しか扱いません。ロボットのPepper*3を想像してもらうとわかりやすいのですが、Pepperは視覚と聴覚、さらには触覚データまで扱っています。相対している人間の表情筋の動き、声の波長など多様なデータに基づき、人に対するリアクションを組み立てている。こういうことをやっているチームは、世界中にいくらでもあるわけです。

澤口 ── そのてっぺんにいるのがGoogleでしょ。彼らの研究、その成果として発表される論文の数はとんでもないですから。

竹之内 ── だから計算資源に依存する勝負では、どこまでいってもGoogleには勝てないのです。だとすれば僕らの取るべき戦略はテキストインフォメーションだけに絞り込み、言葉の入力だけで戦うしか他に選択肢はない。Googleのような計算資源を持つのは不可能だから、彼らとは違うAIで勝負するわけです。

澤口 ── いわゆるGAFAとか、中国の先進的な企業と、まともにぶつかって戦えるプレイヤーなんて世界にはどこもないでしょう。けれども、これぐらいのサーバしかなくても、勝負する土俵を絞り込めば何とか戦えるわけですね。

竹之内 ── 千原ジュニアさんに特化したモデルなら、ここにある一つのサーバで十分です。ところがユーザー数が一千万人レベルに達して、それぞれカスタマイズしたモデルをつくるとなるとかなり厳しくなりますが。

[ 脚注 ]

*1
GPU: Graphics Processing Unitの略で、3Dグラフィックスを描画する際に必要な計算処理を行う半導体チップのこと。
*2
グラフィックボード: 元はディスプレイに画像や映像を映すための部品だが、人工知能(AI)の研究開発においては「計算」を担うようになっている。
*3
Pepper: ソフトバンクが開発した感情認識ヒューマノイドロボット。ヒト型ロボットとして店舗などへの導入が進んでいる。
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