Cross Talkクロストーク
AIと人間のコミュニケーション
── AIと人間のコミュニケーションの話をする前に、澤口先生にコミュニケーションの意味を伺いたいのですが。
澤口 ── コミュニケーションとは基本的に、自分の感情や思考を相手に伝えて生殖行為を行い、生存するために行われます。相手と通じ合うためには言葉以外の様々なコミュニケーションツールが総動員されるでしょう。笑いもコミュニケーションの一種ですから、笑っている人のほうが生存確率が高いという論文もあるほどです。
竹之内 ── コミュニケーションの際に使われるのは言葉であり、身振り手振りなども含まれますね。
澤口 ── 匂いも使いますよ。ただ、あらゆる分野にAIが進出しているけれども、匂いの領域だけはなかなか難しいのではないでしょうか。センサーをつければ対応できるのでしょうが、個人差が大きいですからね。逆にAIが強いのは言語系や映像系でしょう。映像系の進歩もとてつもないレベルに達していて、クルマの自動運転などは映像系AIがなければ始まらない。
── 竹之内様は、AIと人間のコミュニケーションについてどのようにお考えでしょうか。
竹之内 ── 僕らが対象にしているのは、意味に踏み込んだ言葉の領域です。しかも僕らが扱いたいのは合理的な伝達ではなく、人間のコミュニケーションが内包している冗長な部分なんです。一見、冗長と思えるコミュニケーションを僕らは対象としています。AIと人間のコミュニケーションを考えるとき、Googleのアプローチは効率性を徹底的に追究しています。その場合ノイズは徹底的に削除されるでしょう。それでは人間のコミュニケーションが本質的に内包している冗長性が失われてしまう。AIと人間のコミュニケーションにおいて、人間がAIにまったく期待しないような内容を僕らは実装したい。AIならきっとこんな反応をしてくるはずだという期待を、裏切りたいのです。
澤口 ── 冗長というのはコミュニケーションにおける雑談ですよね。それがコミュニケーションを和ませるのは間違いないと思います。私の口癖は「冗長だからやめてくれ」ですが、これは研究者の性のようなものです。そう言いながらも、毎日冗長な朝ドラを見ています。見ながら、なんでこれだけのことを言うのに15分も使うんだ、冗長じゃないかなどとテレビの前でぶつぶつ言ってたりして。冗長は無駄なのですが、無駄を徹底的になくしてしまったら疲れるだけです。そこでAIとコミュニケーションに関するプロの竹之内さんに、ぜひ作ってもらいたいものがあります。
竹之内 ── 何でしょうか。澤口先生が求めるものって興味深いですね。
澤口 ── 恋人ですよ、要するに恋人AIロボットです。これこそが究極のAIだと思うんだけど。生身の女性を口説くのは面倒くさいし、付き合ったところで意思疎通はうまくいかず、どうせそのうち振られるに決まってる。それなら私用にカスタマイズされた恋人ロボットがあれば、どれだけ幸せになれることか。そのロボットには冗長性をたっぷりと盛り込んでおいてほしい。恋人ロボットがひたすら合理的だったりすると疲れますからね。