No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Visiting Laboratories研究室紹介

東京大学 大学院 総合文化研究科 池上研究室

人工生命が多様性をもたらす

TM ── 池上研究室には今、どんなメンバーが集まっているのですか。

池上 ── 多様性があったほうがいいと思っていて、これまでも哲学者とか、生物学者とか、言語学者とか、物理学者とか、いろんなバックグラウンドの人が集まって、さまざまな議論ができる場にしてきました。だから、全員を共同研究者と考えていますね。研究テーマは彼らが持ってくるものもありますが、僕から提案することもある。「こういうのやろうぜ!」と。

TM ── それは先生が必要だと思うテーマだったり、学生さんを見て「こういうテーマが得意だろうな」と考えたりするのでしょうか。

池上 ── 雑談して話すうちに、面白そうなテーマが見つかるんですね。「この問題って、どうやって取り組めばいいんだろう?」と始まる感じです。彼らはプログラミングのスピードも僕より優れている。僕が教えられるのは、ある種の「図々しさ」とか「どこかでやったのと同じものだから使えるぞ」みたいな経験則だけです(笑)

大学というのは、相互作用的な場所だと思います。学生と話をする必要性を感じないのなら、企業の研究所に入って独りでやればいい。研究が生活の一部になっている状況で、彼らと話し合えることがキャンパスの良さ。むしろ、それ以外のメリットはないんじゃないかというくらいです。

TM ── 最後に、今後の研究の目標をお聞かせください。

池上 ── ヒューマニティーを助けるテクノロジーというか、本当の意味での「多様性」を日本にどう持ち込めるのかを考えています。

日本の社会では、日本国内だけのマーケットに向け、日本の会社がいろいろなものをつくってきましたが、そういう仕組みがもう限界になっている。外から人を全然入れない、とても変わった国です。数日前のワシントン・ポストに、日本特派員からのこんな記事が載りました。「米国で移民を抑制するとどうなるのか知りたければ、日本に来るといい。この奇妙な国は多様性を捨てて均質性を選んだことで、徐々に滅びゆく道を歩んでいる」と。

多様性という意味で、これからALifeは日本でも大事な存在になっていくはずです。僕は「ALife everywhere」という言葉を使っていますが、あらゆるところにALifeが作られ、人々が自由に接触できる未来になったら、もうちょっと生命のみかたが変わり、多様で面白い社会になるんじゃないかと考えています。

TM ── 非常に楽しみです。そうした研究室の成果に触れられるオープンな機会というものはありますか?

池上 ── 今年の5月に「東京大学芸術創造連携研究機構」という組織が立ち上がり、トークイベントやシンポジウムのかたちで社会連携をしています。また、来年3月には人工生命に関するちょっとした国際会議の開催を予定していますので、その場で私たちのALifeの研究成果も報告できると思っています。

東京大学 大学院総合文化研究科

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池上高志教授

Profile

池上 高志(いけがみ たかし)

東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系教授、
複雑系科学研究者。博士(理学)。

1961年長野県生まれ。

1984年東京大学理学部物理学科卒業。1989年同大学院理学系研究科物理・博士課程修了。1990年神戸大学大学院自然科学研究科助手。1994年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教授(准教授)を経て、2008年より現職。2017年6月より「あらゆるものに生命性をインストールする」というビジョンを掲げて設立された、株式会社オルタナティヴ・マシン最高科学責任者(CSO)に就任。

複雑系とALife(人工生命)という方法論で、「生命とは何か」という究極の問いに研究者として取り組みながら、世界的なアーティストとして活動。⾳楽家・渋⾕慶⼀郎⽒とのプロジェクト「第三項⾳楽」「Filmachine」(2006年)、「Alter」(2017年)、写真家・新津保建秀⽒とのプロジェクト「MTM」(2010年)、「LongGood-Bye」(2017年)など多岐にわたる。Ars Electronica Honors mention(2007年)・STARTS PRIZE(2018年)、文化庁メディア芸術祭(2010年)審査委員賞・優秀賞を受賞。

著書に『動きが生命をつくる―生命と意識への構成論的アプローチ』(青土社)、『生命のサンドウィッチ理論』(講談社)。共著に『複雑系の進化的シナリオ』(朝倉書店)、『ゲーム―駆け引きの世界』 (東京大学出版会)、『人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか』。共訳書にAndy Clark著『現れる存在―脳と身体と世界の再統合』(NTT出版)がある。

http://sacral.c.u-tokyo.ac.jp/

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。
2018年8月より、アマナ「NATURE & SCIENCE」編集長。
https://nature-and-science.jp/

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