No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

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世界共通の目標であるSDGsは人の心を1つにするアイコン

── SDGsに関連した取り組みを新しいテクノロジーを駆使する企業がビジネス化するということに、どのような意義があるのでしょうか?

山﨑 ── SDGsに関連したビジネスをしようと考えたわけではなく、私たちが目指したビジネスが奇しくもSDGsに貢献できているということだと思います。私たちのビジネスは、次の時代に橋を架けるために、日本の優れたテクノロジーを活用して、グローバルな環境や社会の問題に向き合い、持続可能な循環型社会*5を作りたいという思いで進めています。そして、そんな未来の社会の姿に共感し、その実現に貢献したいと考えるメンバーが集まってビジネスをしています。ビジネスをしていくうえで、それに携わる多くの人が、同じ意義を共有することはとても重要だと感じています。

平本 ── SDGsという世界共通の目標は、立場が異なる人の間を結びつける共通言語となります。

山﨑 ── 確かに、そういった面がありますね。

平本 ── これまでのビジネスは、社会や生活の環境が大きく変化しないことを前提に計画を作り、実行していました。しかし、これからの世の中では、以前では考えられなかったような大きな変化が頻繁に起こるのではないでしょうか。SDGsの目標の中に関連する気候変動、環境破壊、貧困、人口爆発などの問題は、いずれも世界中の人たちの知識と取り組みを積極的に共有し学びあわないと、とても解決できないものばかりです。現在の新型コロナウィルスによる社会の変化も同様だと思います。

そして、これら大きな変化にいかに対応できるかが、ビジネスを創り、営んでいくうえで重要になってくるように思えます。世の中が変化することで短期的なシナリオに多少の変更があったとしても、最終的な目標を達成できるような適応性の高いビジネスの仕組みを作り、取り組む必要があるのです。これは「言うは易く行うは難し」です。SDGsの達成に貢献するビジネスではこうした仕組みづくりを多くの人たちの協力を得ながら実施できるという利点があります。

── 山﨑さんが取り組んでいる、身近なモノに古くから使われてきた素材を、希少な資源に頼らず、地球もやさしい新素材に換えるというビジネスは、時代の要請の変化に応えるものに見えます。

平本 ── そうですね。大きな変化に適応した社会を作り上げるためには、様々な企業が、多種多様な取り組みを積極的に試していく必要があると思います。社会全体を動かす大きなルールが変わる中、既存ビジネスで身動きが取りにくい大企業に代わって、スタートアップ企業が中心となって、私達がこれからも安心して生活し続けたいと思ったときに選ぶことが出来る新たな選択肢を社会に対して示していってほしいものです。そうした意味で、山﨑さんはLIMEXという新しい選択肢を社会に提示していらっしゃるのだと思います。

山﨑 ── ありがとうございます。確かに、SDGsに関連したビジネスは、前例となる正解が今現在ない場合が多いので、柔軟に意思決定し、素早く実行できるスタートアップ企業に向いているかもしれません。ただし、これまで当たり前のように使われていた素材に替えて新素材を使ってもらうのには、新しい会社にとって、苦労が多いのが現状です。新素材の分野は、私たちが孤軍奮闘するだけでは普及は難しく、それを活用して製品を作る企業やリサイクルを考える企業、また消費者に育ててもらう必要があります。

山﨑氏と平本氏の対談は、2020年7月6日にリモートで行われた。
山﨑氏と平本氏の対談は、2020年7月6日にリモートで行われた。

新素材の普及には、利用する側の準備が欠かせない

平本 ── 一緒に育てていくという観点は大事ですよね。新しい選択肢ですので完璧な状態では世に出ていないわけです。そのため、皆が安心してその新しい選択肢を選べるようになるためには、提供している企業だけではなく、原材料を提供している人、利用する人、普及を手伝う人等、様々なステークホルダーには相応の労力や負担が掛かります。

山﨑 ── もちろん、LIMEXで印刷物を作る場合には、既存の印刷機が利用できるように改善するなど工夫はしているのですが、どうしても最初にお使いいただく際は、利用者の理解や準備が必要な部分は出てきます。

平本 ── 協力を求める際に、SDGsのような誰もが共感できる国連が主導する目標が皆の背中を押してくれることで、エコシステムが変化しやすくなる面があります。さらに、LIMEXのような新素材の場合、提供している山崎さんがいま見えている範囲の外がどう影響を受けて動いていくのかを想像することがとても重要になります。SDGsはそういった自分が見えない領域での動きを活発にさせていくことで、社会全体を動かす力を持っているからです。重要な社会問題の中には、SDGsの17の目標に入らなかったものもあります。しかし、そうした社会課題に関連したビジネスも重要ですが、SDGsに貢献できるビジネスであるのなら、より社会を変革しやすい状況にあるのだといえるでしょう。

山﨑 ── おっしゃるように、SDGsという明確なゴールが示されたことで、私たちのビジネスはとてもやりやすくなった面があります。多くの企業からの協力も得やすく、プラスチックゴミの削減に対して多くの国が期限を設けてアクションを取り始めるなど、ビジネスを展開する際に追い風となるルール変更も進んでいます。もはやSDGsに沿わないビジネスは、今後の成長は望めないのではないかと思えるほどです。こうした世界が求めるテクノロジーを広く確実に実用化し、世界が抱える課題の解決に貢献していくことは、テクノロジーを利用して製品を作っている企業の責任であると肝に銘じて仕事をしています。

平本 ── SDGsを共通言語として、国や業界、立場を超えて人同士の接点が得られるというのは、新しいビジネスを立ち上げるうえでもとても大切なポイントになりつつあります。

一般に、新しいことをやろうとすると、批判をする人も出てきます。しかし、完璧なモデルを最初から提示できるわけもないので、持続可能な未来のために皆で育てていくという社会が必要になります。

実際に、現代のビジネスではグローバル化が進み、世界中の様々な状況や価値観を包含してバリューチェーン*6が出来上がっています。SDGsにおいては、グローバルなバリューチェーン全体においてSDGsを達成するために必要な基準を満たしているかどうかをチェックし、改善していくことが必要になります。他方で、こうしたバリューチェーンは、1社で構築しているわけではありません。だからこそ、対話をしながら皆で新しい選択肢を育てていくことが必要になりますし、SDGsのような共通言語があれば、皆の思いも組み入れやすく、ベクトルも揃いやすくなります。

[ 脚注 ]

*5
循環型社会: 環境への負荷を減らすため、自然界から採取する資源をできるだけ少なくし、それを有効に使って、廃棄されるものを最小限に抑える社会。その実現には、生産や消費を抑え、ごみを減らし、製品の再使用を推進、さらに再生できるものは資源として再生利用するという3R(Reduce、Reuse、Recycle)の推進が求められる。
*6
バリューチェーン: 製品の製造や販売、それを支える開発や労務管理など、すべての活動を価値の連鎖として捉える考え方のこと。競合と比較して強み、弱みを分析して事業戦略の改善策を探る際のフレームワークとして、1985年にハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・ポーターが著書『競争優位の戦略』の中で提唱した。
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