No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

Cross Talkクロストーク

SDGsはスタートアップ企業のビジネスに向いている

平本督太郎氏

── SDGsのような世界の課題に貢献する取り組みは、国家規模の支援事業や、経営に余裕のある大企業の社会貢献の一環であるかのように感じている人が多いと思います。しかし、SDGsは、スタートアップ企業のビジネスのテーマとして向いているという話が出てきました。多様なテクノロジーを高いレベルで保有する日本からは、SDGs関連ビジネスに挑戦するスタートアップがたくさん出てきて欲しいところです。

平本 ── SDGsの前身であるMDGsの時代には、日本ではスタートアップ企業が関わることがほとんどありませんでした。あったとしても、規模の小さなものばかりでした。これが、SDGsではスタートアップ企業による参画の数が増え、ビジネスの規模も大きくなりました。とても大きな変革が起きている兆しを感じます。スタートアップ企業が参加することで、目標を達成する可能性が高まることでしょう。

社会を大きく変革させる時には、取り組む人やアイデアの多様性がとても重要になり、多様性があれば、社会が新しい環境に適合しやすくなります。また、スタートアップ企業の活力を生かした突破力も、変革を推し進める際の重要な要素です。従来とは違ったことをしようとするイノベーターの足を引っ張る人は多いのですが、意図的に妨害する人は少ないものです。多くの場合、自分の過去の成功体験に照らし合わせて、親切心から新しい挑戦に内在するリスクをことさら強調し、結果的に足を引っ張ってしまうことになるのです。こうした親切心はむげに排除することはできませんから、対話をしながらも協力関係へと発展させていくために、まず行動して結果を提示するという突破力が求められていきます。

山﨑 ── 確かに、親切心からいろいろなリスクを指摘していただく機会がありますね。そうした指摘の中には、私たちが耳を傾けるべきことも多くあります。逆に、指摘した方が、社会の変化を実感して、意識を変えることもあります。平本先生がおっしゃるように、最初から100点満点のビジネスなどできないのですから、自分たちと違った知見や価値観を持つ人と議論して、ビジネスを磨いていくことは重要だと思います。大きな変化が起きる時代には、ビジネスの環境も刻々と変わってきますから、作りたい未来、やり遂げたいことを見定めながら、その時々の正解と不正解をしっかり見極めてやり切る力がとても大切になると考えています。

私たちが取り組んでいる新素材ビジネスは、1社ですべてをやり切れるわけではありません。大企業や政府、業界団体などの力を借りなければならない場面が必ず出てきます。平本先生は、どうやったら上手に周囲を巻き込んでいくことができると思われますか。

平本 ── 周囲の組織がどのようにベンチャー企業に接していくべきかという観点から考えると、SDGsに取り組む大企業や関連団体がスタートアップ企業の取り組みをバックアップする際には、まずスタートアップ企業の取り組みについて知ることから始めることになります。そのスタートアップ企業がどのような社会変革にチャレンジしているのかを製品・サービスに限らずエコシステム単位で理解をし、その取り組みが自組織のSDGsの取り組みとの間でどのような補完関係にあるのかを考えることが重要だからです。

例えば、環境課題や社会課題の解決に向けて活動している自治体や非政府組織(NGO)や非営利団体(NPO)は、SDGsに関連した取り組みに古くから携わっているため、豊富な知見やノウハウを蓄積しています。そして、スタートアップ企業がSDGsの達成に貢献する商品を投入する際には、商品の不備や改善点をアドバイスするといった役割を担ってくれることがあります。

他方で、NGOやNPOは、環境や社会の視点で活動をしてきたため企業が知らない世界を見る力がある一方で、ビジネスが持つ人々の主体性・自立性や取り組みの持続性を生み出す力を十分に有していない場合があります。だからこそ、MDGsにおいて地球規模課題の解決には企業の参画が必須という流れが出来たのです。従って、NGOやNPOが十分に触れてこなかった経済が持つ力を得て、自分たちの取り組みを発展させ経済・環境・社会の好循環を起こすことが出来るように、スタートアップ企業がビジネスの持つ力を共有していくことが新しいパートナーシップの創出には有効だと思います。

山﨑敦義氏

山﨑 ── 私たちも、NPOなどと連携して取り組む機会が多くあります。これから先も増えていくことでしょう。こうした団体の方々は、私たちの企業理念に共感してもらえる方々が多く、彼らが持つ先行的な取り組みに基づく知識や知見は私たちにとっても有益なものです。私たちは彼らの取り組みを加速・拡大させるためのお手伝いができます。こうしたスタートアップ企業とNPOなどの協力関係はSDGs関連のビジネスならではの関係だと思います。

平本 ── スタートアップ企業とNGOやNPO、政府、国際機関とのパートナーシップにおいて重要なことが、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念です。この理念に沿った取り組みには、アクセスしやすい人だけではなく本当に困っている人が抱える課題を解決するという意識を常に持ち続けることが重要になります。しかし、企業が徹底しようとしても、本当の意味で一人ひとりに寄り添っていくというのはなかなか難しいと思います。そうすると、本当に困った人を置いていってしまう可能性が出てきます。

MDGsの取り組みでは、こうした1人ひとりに行き届く、“ラスト・ワンマイル*7”のケアができる仕掛けが課題だと言われていました。公共機関や非営利組織は、元々ラスト・ワンマイルを大切にした活動をしています。スタートアップ企業は、こうした団体の役割を理解して連携を取ることで、SDGs関連ビジネスに欠かせない1人ひとりに寄り添うアプローチの実現を目指すことが出来るようになるのです。

[ 脚注 ]

*7
ラスト・ワンマイル: 物流網や通信ネットワークにおいて、配送や伝送の最終拠点から、エンドユーザーまでの間のことを指す。

Profile

山﨑敦義氏

山﨑敦義(やまさき のぶよし)

TBM 代表取締役 CEO

1973年、大阪府岸和田市生まれ。中学校卒業後に、大工見習いを経て、20歳で中古車販売業を起業。

30歳で訪れた欧州で、「グローバル」「100年後の継承」「人類の幸せ」をテーマに1兆円事業を興したいと奮起し、2011年に株式会社TBMを設立。石灰石を主原料として、紙やプラスチックの代替となる新素材「LIMEX」の普及、LIMEXによる資源循環モデルの構築を推進し、持続可能な循環型社会の実現に向けて、グローバルでのサステナビリティ革命に挑戦している。

Plug and Play 2016「世の中に最も社会的影響を与える企業-ソーシャルインパクト アワード」受賞。EY Entrepreneur Of The Year 2019Japan、Exceptional Growth部門「大賞」を受賞。
2019年、企業価値評価額「1218億円」、ユニコーン企業になる。

平本督太郎氏

平本督太郎(ひらもと とくたろう)

金沢工業大学 SDGs推進センター長

慶応義塾大学大学院卒業後、2015年度末まで野村総合研究所にて経営コンサルタントとして、日本政府の政策立案支援、民間企業の事業創造支援に従事。在任中に社長賞である未来創発ナビゲーション賞を受賞。

2016年に金沢工業大学に着任し、金沢工業大学における第1回ジャパンSDGsアワード SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞受賞に、現場統括として大きく貢献するとともに、会宝産業の顧問として同企業における第2回ジャパンSDGsアワード SDGs推進副本部長(外務大臣)賞受賞に貢献した。

現在、白山市SDGs推進本部アドバイザリーボード座長、SDGsに関する万国津梁会議委員(沖縄県)を務めるとともに、経済産業省のSDGsビジネス関連の補助金制度の選定委員、ジェトロSDGs研究会委員を歴任。

主な編著に『アフリカ進出戦略ハンドブック』(東洋経済新報社/共著)2015年、『BoPビジネス戦略』(東洋経済新報社/共著)2010年などがある。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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