No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載02

ニューノーマル時代にチャンスとなるテクノロジー

Series Report

ニューノーマルに向くテクノロジー

ニューノーマルとは、元の状態に完全に戻ることではない。新型コロナがそばにあるという前提で、元の状態に近づけることである。このための一つの処方がテレワークだが、他にも処方はある。例えばエレベータのボタンに触れなくても所望の階に行くことができるようにすることは誰しも望むことだ。ここに新しいビジネスチャンスがある。音声入力、ジェスチャー入力など、タッチレスの解(ソリューション)を使えば、今までと同じ便利さを共有できるようになる。これを実現するテクノロジーこそが半導体である。

ニューノーマル時代は新型コロナが完全に抑え込まれたわけではない。いつ何時、第3波、第4波が押し寄せ、感染拡大するかどうかわからない。そのような時が来たら、いち早く回復させることが重要になる。つまり、レジリエンシー(resiliency:もとに早く戻るという復元力)をもっと高めることが必要なのだ。これに対し市場調査会社のLux Research社は一つの指針を紹介している(参考資料2)。例えば製造業では、自動化を進め、製造代替技術(factory-in-a-box: 箱に詰めた工場というべきシミュレーション)や、3Dプリンタ、デジタルツールを使ったサプライチェーンの強化、マイクログリッドを設置しエネルギー供給を確保すること、などを挙げている。デジタルツインもこれに当たる。

さらに、企業はこれまでの固定された考え方に捉われず、もっと柔軟な考え方(アジリティ:Agility)を活用することだ、ともLuxは指摘する。固定されたビジネスプロセスをゼロベースで考え直すとか、選択肢をもっと広げてみるなど、新しい考え方も重要である。フレキシブル生産を可能にする技術やビジネスプロセス、素早い対応のための3Dプリンタの活用、新しい出来事への対応を増やすことも大事だとLuxは指摘する。こういった指摘は、これまでの日本企業にはなかったため、企業としての考え方を変える機会になり得るであろう。

実はこういった指摘は、デジタルトランスフォーメーション(DX)と極めて関係が深い。すなわちビジネスプロセスにITを活用し、業務効率を上げることで、レジリエンシーやアジリティを挙げていける。これによって更なるコロナの感染拡大に対応していく、というわけだ。

ウイルスに対する誤解

新型コロナの感染拡大に悩まされていた欧州では、中国が力を入れている第5世代(Fifth Generation)の無線通信技術である5Gが新型コロナの感染を広げている、といったデマがSNSで広がった。こういったデマに操られて実際に5G通信基地局が放火された事件もあった。5Gのようなワイヤレス通信はあくまでも周波数が3.7GHzあるいは4.5GHz、28GHzなどの高周波の電磁波にデータを載せて(重畳させて)送信、受信するテクノロジーである。ウイルスや細菌を運ぶものでは決してない。また、電磁波という言葉で新興宗教を勧誘することも正しい知識で電磁波という言葉を使っていない。

こうした誤解を防ぐためには、ウイルスに関する正しい知識が必要だろう。ウイルスは細菌と違って、生物ではない。半導体シリコンと同じように、結晶化することも50年以上前から知られている。ウイルスそのものは細胞分裂できないため無生物といえるが、動物の細胞内にいったん入ると生物的な振る舞い、すなわち細胞分裂で複製し、寄生した細胞をどんどん増やしていく。これが厄介な点だ。

ウイルスは、遺伝子であるDNA(デオキシリボ核酸)あるいはRNA(リボ核酸)に蛋白質の殻を被った「モノ」である。DNAは二重らせん構造で安定なため遺伝子情報を長期間保存できるのに対して、RNAは二重ではなく塩基が一本の鎖に連なっているため不安定で一時的な保存しかできない(図2)。

[図2]二重らせん構造のDNAと、一重だけのRNA
出典:医学生物学研究所
https://ruo.mbl.co.jp/bio/product/epigenetics/article/RNA.html
二重らせん構造のDNAと、一重だけのRNA

新型ウイルスはRNAに蛋白質が被っている不安定なウイルスだと言われている。このため、何か他のものとくっついて安定になろうとする傾向が強い。感染力が強いのは、このためかもしれない。

半導体は必要不可欠な産業

新型コロナウイルスが蔓延し始めたころ、半導体・IT企業は何ができるか、という視点から、拠点となっている地域で現金やマスクの寄付が行なわれた。Intelは工場のある地域で600万ドルを寄付、Xilinxは110万ドルをWHO(世界保健機構)に寄付、ON Semiconductorは1万枚のマスクを寄付した。国内でもKDDIは1億ドルを中央共同募金の会に寄付した。

IT業界の中でもHigh Performance Computing (HPC) Consortiumは、新型コロナでDNA/RNA解析に必要なコンピュータを支援することを発表した。医療者向けにコンピュータの利用を促進する企業も出てきた。

半導体の企業活動が世界的にとても重要という見方を示したことも新型コロナになってからだった。マレーシアは当初、都市封鎖を行った時は半導体工場の停止を求めていた。しかし、アメリカの半導体工業会(SIA)と世界半導体製造装置協会(SEMI)が、半導体は必要不可欠な産業(Essential Business)だとアメリカの各州政府に求め、認可されたことを受けて、マレーシアでも半導体工場は1~2週間停止しただけで、稼働は続いていた。中国の武漢が最初に都市封鎖を行った時でさえ、武漢市内にあるNANDフラッシュメーカーYMTCの工場だけは、フル生産ではなかったが稼働を続けていた。中国「製造2025プロジェクト」で半導体の国産化を強く推進していたことが、その理由である。封鎖解除で即座にフル生産に移行した。

半導体製造装置産業でも、アメリカでApplied MaterialsやLam Researchなどの大企業が工場を止めさせられていたが、当局へ認可を申請し、受諾された。元々ハイテク産業に理解のなかったトランプ大統領は、ローテクもハイテクも区別をしなかったが、SEMIの働きかけで半導体の重要性が認められた形だ。こうした動きを背景にSEMIジャパンも日本政府に半導体が必要不可欠な産業であることを認めさせた。

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