No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載02

ニューノーマル時代にチャンスとなるテクノロジー

Series Report

Georgia Techの安価な人工呼吸器

人工呼吸器は一時、入手困難、使い勝手が悪いと言われてきた。もっと簡単に作れるような装置はできないものかという考えで、米国のジョージア工科大学は、汎用のコンピュータボードである「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を使った人工呼吸器を開発した(図3)。人工呼吸器は、最大手メドトロニック社が製品化している普及タイプでも1台300万円もする。今回は、その1/100の価格で作製できた。商用で入手できる部品で全て作製したためだ。

[図3]Georgia Techが開発した人工呼吸器
患者の口から空気を肺に送り込み、吐き出すという作業をマシンが行う。わずか3万円で作製できる
出典:Georgia Institute of Technology
Georgia Techが開発した人工呼吸器

人工呼吸器は、患者の呼吸状況に合わせて肺に空気を送り、吐き出す、という工程を規則正しく行う。まず、患者の息を吸い込む空気の量をセンサーで検出し、機械は空気を送る。それが終わると患者が吐き出す空気を機械で吸い込むようにする。この一連の作業をスムーズに行えるように、タイミングを合わせてアクチュエータを駆動するのだ。

Georgia Techは、センサーからのデータを検出すると、アクチュエータを押し出す/ひっこめるというピストン運動を、ラズベリーパイ上のCPUで制御する。この一連の動作には、CPUからの信号によって最後のアクチュエータ(モーター)を駆動するためのパワー半導体も必要で、モータの駆動でピストンを動かす。全て市販の部品だけで作ることができ安価なため、今後、発展途上国を対象に提供していくとしている。

ルネサスは人工呼吸器用チップを提供

今年の4月、人工呼吸器の生産が間に合わないと見た世界トップのメドトロニック社は、人工呼吸器の技術仕様を公開した。それを受けて、旧IDT社がマネージしているルネサスアメリカは、世界に先駆けて人工呼吸器向けの開発ボードを作製し、その仕様に基づくルネサスのマイコンや電源用IC(旧インターシルが提供)、流量センサー(旧IDTが提供)などの半導体チップを提供すると発表した。

そのスピードは、これまでのルネサスでは考えられないほどの早さであった。メドトロニック社が発表してから、わずか10日で発表したのだ。ルネサスが買収したIDTなどのチームが手を組んだ良い例となった。

殺菌作用のある紫外線も利用

国内では消毒用の紫外線LEDが注目を集めている。可視光より波長の短い紫外線はエネルギーが高いため、ウイルスを蛋白質とDNA/RNAに分解できる。この性質に着目し、新型コロナの流行以前から、ウシオ電機やナイトライドセミコンダクターなどが、殺菌用の紫外線LEDランプを販売していた。

このほどウシオ電機は、広島大学と共同で、波長222nmをピークとする紫外線が新型コロナを不活性にするのに有効であるという実験結果を発表した。この実験に使われた紫外線照射装置Care222は、プラスチックの上に載せた新型コロナウイルスに照度0.1mW/cm2で波長222nmの紫外線を30秒間照射すると、新型コロナウイルスを99.7%不活性化するという。

従来、殺菌用には波長254nmの紫外線が使われてきたが、人間の眼や皮膚に照射すると危険であるとされ、人のいない環境で使われてきた。しかし、波長222nmの紫外線を人間の眼や皮膚に照射しても、波長254nmの紫外線より障害が少ないと、ウシオ電機は述べている。光の波長はエネルギーに反比例するため、波長が短いほどエネルギーは高く、人間の眼には影響を与えると思われてきた。なぜエネルギーの高い波長222nmの紫外線の方が、エネルギーの低い波長250〜270nmの紫外線よりも障害が少ないのか、その理由については明らかにしていないが、222nmの方が障害が少ないことが報告されている。

タッチレス技術がこれから続々登場

ニューノーマル時代の需要は医療機器だけではない。人と触れ合わないための距離をとる、ソーシャルディスタンシングや、タッチせずにコンピュータやシステムに入力するためのHMI(ヒューマン-マシン・インターフェイス)の開発も欠かせない。新型コロナ以前から、こういったタッチレス技術は開発されてきたが、今一つタッチレスであることの有効性がはっきりしなかった。

タッチレス技術としては、非接触でのジェスチャー入力や、AIスピーカーのような音声入力などがあった。ジェスチャー入力は、台所仕事をしている人の手が泡だらけになっている時に、タブレットに入力するのに有効だという触れ込みだったが、そのためにだけタッチレスにする必要性が明確ではなかった。しかも、ジェスチャーを認識する感度はそれほど良くなく、展示会などでは失敗デモがよく見られた。しかし、今回の新型ウイルスは、飛沫感染や接触感染が伝搬する原因であるため、タッチレスはマストになる。需要が増えることは間違いない。

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