No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載02

ニューノーマル時代にチャンスとなるテクノロジー

Series Report

ミリ波レーダーでイメージング

ジェスチャー入力に関する最新情報として、ミリ波レーダーを使ったジェスチャー入力が、間もなく実用化しそうだ。ミリ波レーダーは最新の高級車に採用され始めており、濃霧や吹雪のようにカメラだけでは前方が見えない状況で威力を発揮している。

クルマの前方検出のミリ波レーダーは、77GHz/79GHzという周波数で帯域は1GHz程度であるため、前方にモノがあるかないかという判断しかできなかった。しかし、現在、世界的にも日本国内でも、60GHzの周波数で帯域が7GHzと、極めて広い電波が許可されつつある。高周波のミリ波レーダーで、しかも広帯域となると、対象物との距離をとるデータ数を増やすことができるため、指を用いた表現、例えば人差し指と中指でV字サインを作ればOKという意味なども認識できるだけでなく、薄ぼんやりとした程度の解像度の映像イメージングも可能になる。プライバシーが問題になるほど鮮明ではないが、人の有無の検出ではなく、動いている、歩いている、倒れているといった程度の画像を得ることができる。

この60GHz用のレーダー送受信機チップをドイツのインフィニオンテクノロジーズ社が商品化しており、当初の応用目標としてスマートフォンやタブレットのジェスチャー入力を想定している。周波数60GHzの電波を発し、手で反射した電波を受信することで、電波が往復した距離がわかる。連続パルスで常に距離を測り続けていると手を動かしても電波が追従していき、距離の分布がわかり、手をどのように動かしたかを認識できる。

電波は透明、壁でも通す

同社は、次に赤外線人感センサーの置き換えを狙った製品や、車内の人間センシングなどへの応用も狙っており、次々とさまざまな応用を想定したロードマップを描いている。赤外線は光であるから遮蔽物があると透過しない。赤外線カメラは、毛布や何かで幼児がおおわれていたり、隣の部屋に行ったりすれば検出できないのだ。しかし、ミリ波は電磁波であるため、毛布であろうが壁であろうが透過して検出できる。また、最近は車内に幼児を残したまま両親が車外に出て、幼児が脱水症状を起こし死に至った事件が、日本だけではなく世界中で起きている。このため、欧州や米国では、新車に車内人感センサーを設置することが、間もなく義務付けられるようになっている。

ミリ波よりもっと高いテラヘルツ周波数のイメージング技術は、犯罪防止にも使える。例えば、金属探知機では検出されないセラミックナイフを隠し持っていても、テラヘルツ周波数を使えば検出可能だ。図4は、セラミックナイフを新聞で隠している写真である。画像はさほど鮮明にはならないが、周波数を高くすればするほど直進性が増し、衣服や紙を通過してしまう。

[図4]テラヘルツ周波数でのイメージング画像
出典:QinetiQ社、Glasgow大学
テラヘルツ周波数でのイメージング画像

テラヘルツイメージングは、まだ研究段階だが、ミリ波は実用化フェーズに来ている。テラヘルツで周波数はミリ波よりも1桁、2桁高いため、使える帯域も広く取れる。このため、イメージング画像はより鮮明になる。しかし、今の技術では、この写真程度の画像を撮影するのに1時間以上と長く時間がかかってしまうが、超高周波技術が実現されるようになると、もっと高速に画像を得ることが可能になる。因みに5G通信の本命はミリ波だが、6G通信となるとテラヘルツ波も有力候補になる。

音声入力の認識精度を上げる

音声入力の認識精度を上げるため、AIスピーカーに近づかなくても音声入力できる、音声のビームフォーミング技術も使われ始めている。これは例えば、「OK、グーグル」と言えば、AIスピーカー側が声の主にマイクの指向性を合わせ、入力感度を上げる技術だ。MEMSマイクを4つ使うのだが、ビームフォーミング技術により4つのマイクが同じ向きを向くように位相を少しずつ変えてゆく。これによってマイクの感度が向上し、認識精度が上がるという訳だ。

カメラによる顔認証技術もニューノーマル時代にはもっと普及するだろう。オフィスビルでは顔認証によって、どこにも触れずに入退出できるようになる。最近、高級ホテルなどでは、カードキーを持った客のカードを読み取り、パネルに触れると予約した部屋の階にしか止まらないようなセキュリティシステムがある。客以外の人間がエレベータ内でボタンを押してもエレベータは、その階には止まらない。元々セキュリティを高めるために導入されたシステムだが、どこにも触れたくない新型コロナを前提としたニューノーマル時代には、できるだけデバイスやスイッチに手を触れずに済むという点で、もっと普及していくだろう。

連載最終回では、感染経路探索技術や、リモート診断、AR/VRを使ったオンライン会議などの新しいテクノロジーを紹介する。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2024」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

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