No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載02

ニューノーマル時代にチャンスとなるテクノロジー

Series Report

なお、ミリ波(周波数30GHz~300GHz)を使ったレーダー技術で、生体信号を測定する技術は、これが初めてではない。アメリカのアナログ・デバイセズ社も、日本国内で開催された展示会において、ミリ波信号をレーダーとして使い生体情報を得るという技術をデモしている。

同社は24GHzのミリ波を使ったデモを「人とクルマのテクノロジー展2019」で公開したが、自動車の運転手の健康状態モニターに使う技術という位置づけだった。運転手が意識障害を起こして事故につながった例がすでに報告されており、同社は、ドライバーの心臓の信号を検出する技術としてデモしていたのだ。

Bluetoothのペアリング機能を利用するCOCOA

感染者の経路をBluetoothのペアリング機能を通して見つける方法がある。厚生労働省が提供している接触確認アプリ「COCOA」だ。短距離無線通信機能Bluetoothは、最近のスマートフォンのほとんどに搭載されており、近くにBluetoothの電波を発しているスマホや周辺機器があれば知らせるペアリング機能が付いている。スマホのBluetoothチップからは、2.45GHzの電磁波パルスが、短時間だが定期的に発射されているため、知らせることができるのだ。

常に電波を自動的に発射していれば、その分、電力を消費すると思われるだろうが、発射するパルスの時間はごく短く、1回のパルスから次のパルスまでの時間が非常に長く設定されているため、電力消費はそれほど大きくない。

元々Bluetoothのペアリングは、スマホとイヤホンのようなヘッドセットとの間を無線で接続し、イヤホンで通話できるよう、スマホとヘッドセット機器が互いに認識するために設けられた機能だ。電波の強さで距離を換算し、近くにいる人のスマホのデータを暗号化して互いのスマホに記録する。

COCOAは、1m以内の距離でペアリングしている時間が15分以上あれば、単純にBluetooth内蔵のスマホを持っている人を濃厚接触者だと認識する。そのうちの誰かが、PCR検査をして陽性であることがわかると、感染者は感染確認後に保健所から発行される「処理番号」をCOCOAに入力することになる。すると、アプリを統合しているサーバーにより、感染者のスマホの記録から濃厚接触者が割り出され、通知が届く仕組みだ。

感染経路を精度良く追跡できる

感染者の位置を特定することは個人情報保護の点から現在は行われていないが、感染が爆発的に拡大すると、個人情報保護よりも感染拡大防止が優先されることもありうる。GPSでは電波の届く屋外では個人を追跡できるが、トンネル内や地下街など衛星からの電波が届かない所では追跡できない。

そこで、GPSに代わって有力視されているのがBluetoothビーコンだ。現状でもBluetoothビーコンで位置を特定することはある程度できている。この従来方法は、三角測量の原理と同じように、3か所以上の離れた場所からBluetoothビーコン電波を発射し、3か所からの電波の強弱から位置を推定する。最も電波が強い場所がビーコンの発射した位置に近い所にいることになる。しかし、精度が±1〜2メートルと低い。

そこで、cm単位の精度でBluetooth機器の位置を見つける方法が最近開発されている。これは電波が発射されている放射角度を検出することで、位置精度を上げる方法である。発信機が複数個(例えば4つ)のアンテナを配置するAoD(Angle of Departure)法と受信機が4つのアンテナを配置するAoA(Angle of Arrival)法がある。これらの方法は、アンテナを一つしか持たない受信機あるいは発信機までの電波の角度を電波の位相差から計算し位置を特定する技術である。

[図4]複数のアンテナからの電波の受信角度から発信機の位置を特定する
出典:Bluetooth SIG, Inc.
複数のアンテナからの電波の受信角度から発信機の位置を特定する

オンライン業務やテレワークでの実績も増える

テレワークでは、自宅で使うためのパソコンやWi-Fiルーターなどの通信機器の需要が増えたほか、会社のデータをクラウドに上げるといったクラウドサービス需要も増えた。これに伴い、クラウド需要を拡大するためデータセンター内に設置するサーバーやストレージの需要も増えている。

海外工場と本社工場との間で、本来なら出張するようなミーティングもオンラインになった。新型コロナによって海外出張の機会は極めて減少し、航空機産業は前年同月比90%減にまで低下した時期もあった。海外出張の目的の一つとして、海外工場での指導や研修がある。TELESCOPE Magazine 23号の本連載でも少し触れているが、スウェーデンの通信機器メーカー・エリクソン社は、海外工場での研修をVR(仮想現実)で行った。

同社は、5G通信機器を製造する5Gスマート工場を、すでにエストニアの首都タリン市で展開している。このほどアメリカのテキサス州ルイスビルに設立した5Gスマート工場を早く立ち上げるため、本来なら出張して研修を行うところだが、3月にVRを使った研修を行い(図5)、早期の立ち上げに成功した。

[図5]エリクソンが海外工場の新人研修をVRで行った
出典:Ericsson
エリクソンが海外工場の新人研修をVRで行った

エリクソンの人事担当役員は、まだ稼働していない工場で新人研修をどうやって行うべきか悩んだ。エストニアのタリン市では、すでに5Gを利用したスマート工場を稼働させてきたが、そのノウハウをどうやってルイスビルの新工場に伝え、稼働させるのかが問題だったのである。最も効率良く生産性高く実施するために、仮想的に協力することでタリン工場の仲間と知識を共有できると考え、VRを使った研修に踏み切った。テキサス州ダラスの教室から将来の米国5Gスマート工場のプロフェッショナルが8000km離れたエストニアの仲間に加わったようなものだったという。タリン工場の改善マネージャーはライブでアバターとして参加し、タリン工場の生産ラインの360度ガイドツアーを録画で見せ、質疑応答はライブで行った。

以来、アメリカの工場では5月までに60名以上のプロフェッショナルを研修・育成したという。VRは、エリクソンの他のスマート工場でも共同作業と知識の共有に使われている。VRを使った研修によって高いスキルを持つプロフェッショナルなスタッフがたくさん生まれたことで、初日から5G製品を容易に製造することができたという。

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